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褒めて伸ばして 26
「…………飯ーーーーーー」
「………………」
「………………………って要りますか?」
「いるよ!何言ってんだおめーは!!」
あからさまに面倒くさそうなため息をそれはそれは長く吐き出し、帰宅したばかりの逸は仕方がないとでも言わんばかりに冷蔵庫を開く。
「お前その態度はほんとどうかと思うぞ!」
「手抜きでいーすか?」
「話聞けや!」
「先食べててって言っとけば良かったなあ」
「本気でシカトしやがる………」
呪詛よろしく文句を呟きながらも、逸の手際は平素を遥かに凌駕していた。
さっさと済ませて敬吾に触れたいが、やはり適当なものを食べさせるわけにも行かない。
つまり手を早くするしかないのだ。
「敬吾さんこれレンジで一分半お願いしますー」
「え、うん」
「冷蔵庫からもやしと豚コマください」
「おう……」
「これはテーブル行っちゃって大丈夫です、帰りにレンジの茄子ください。超あっついんで気をつけて下さいね」
卵焼きの皿を手渡してフライパンを火に掛け、温まる間に汁物を仕上げる。
フライパンが温まると適当に豚肉ともやしが放り込まれ、火を通す間茄子のお浸しが完成した。
「これに根生姜すってもらっていいですか?あとゴマ振ったらオッケーです、あ、スープも」
「はいよ……」
敬吾がそれらを運んだ頃には逸はフライパンを洗い終えて乾かしつつ、白米をよそって敬吾に手渡す。
自分はもやし炒めと細々した調味料や常備菜を持ちリビングに入って、台所の灯りを消した。
「はい、いただきまーす。」
「いただきます……、お前すげえな……」
「こんなん普通ですよ」
「違うよ執念がだよ……………」
大概呆れて言っている敬吾の発言は黙殺される。
まあ、一日部屋にいたくせに食事の準備もしていなかった手前敬吾も余り強くは言えない。
その上、あれほど手を掛けずに作ったくせに十分美味いときている。
「この茄子チンしただけだよな?うめー」
「……そうですよ…………、」
奥歯にものが詰まったような逸の声音に、敬吾がふと顔を上げると、逸は茶碗を持ったまま俯いていた。
ーー怒っている?
その顔がさっぱりと上げられると、意外なことに逸は笑っていた。
「なんだよ?」
「いや、敬吾さん全っ然いつも通りだなと思って」
「はあー?」
「あはは、いや……なんでもないです。和むー」
口元に笑いを残したまま箸を進める逸を、敬吾は心底不審そうに眺めていた。
ーーさっきまではピリピリしていたくせに。
その、逸が隠そうともしなかった焦燥が、今少し慰められてしまっている。
やはり自分は敬吾には勝てないのだと逸は気軽に、しかししみじみと考えていた。
「だから、なんだよ……」
そう言われて、敬吾を注視していたことに逸はやっと気づく。
笑ったままに首を振り、逸は箸を置いた。
「ごちそうさまでしたっ」
「ぅえ、速いな」
「俺シャワー浴びてきますねー」
「…………………。どうかと思うぞ……………!」
やはり黙殺されながら、敬吾はやっとじわじわと冷え熱のような焦りを感じ始めていた。
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