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褒めて伸ばして 30
興奮しきって表情を失った逸の口元が、困ったようにふと上がる。
「……?」
「脱いじゃダメですよ」
優しくそう諌めながら、揃えて斜めにベッドに上げられた敬吾の足首を掴む。
そんな悩ましい姿勢になってしまったのは一重にこの厄介なスカートのせいで、更にはその中に履かせられている下着のせいだと敬吾は喚きたかった。
誰に向けてなのかは分からなかったが。
「え、っだって靴のままか」
「新品ですし。大丈夫ですよ」
「そういう問題ーー」
「敬吾さん」
更に足の方へ進もうとした敬吾の手を掴み、逸は敬吾の顔を真っ直ぐに覗き込む。
「ーー今日は俺のご褒美でしょ?」
「っ、」
「上がって、座って」
「………………っ」
そう言われてしまうともう、敬吾には反論のしようがない。
強いて言えば「せっかく用意したのだから」ではなく「是非ともそうしろ」である辺りが、どうにも変態じみていて剣呑ではあるのだが。
観念して足を上げるが、やはり靴底を付ける気にはなれない。
なれないが、庵座はこのスカートのせいでできそうになく、靴を履いての正座は関節への攻撃力がやたらと高い。
「ど、座れってこれどう………」
敬吾があたふたしている間にも逸は顔色一つ変えず、両手で足首を掴んでゆるく広げさせた。
「わぁっ!!」
敬吾が必死に裾を守り、膝を固めるので逸に向けてきれいな三角形ができあがる。
その頂角を窘めるように徐々に開かせながら逸が唇を落とす。
「っーーーー」
細い糸の畝に触れる乾いた感触が、愛おしげに幾度も落とされていく。
それが脛に、ふくらはぎにと下って行き足首を食んだ。
濡れた音が漏れるが、布を隔てた感触はやはりどこか篭っている。
「ーーっちょ、岩井…………」
敬吾が諌めるが、逸は掴んだ足首を離さない。
そのまま甲に口づけるとやっと、顔を上げて敬吾の目を見た。
そして笑う。
敬吾は既に泣き出す寸前だった。
それに何を言うこともなく、逸はそっと敬吾の肩を押す。
そのことに敬吾は妙に安心していた。
ーーが。
脚に張り付いた逸の手が上がり、そのまま手首でスカートをたくし上げていく。
「わっ、ちょっ岩井っ!」
「はい?」
「やっやだっ、」
「そうですね」
「!?ちょ、ならやめ」
「その顔。すげえそそります…………」
「ーーーーーー」
懇願するように歪んだ敬吾の顔が固まると、逸はふっと笑って顔を俯けた。
肩で敬吾の膝に体重を掛け、その膝下を脇に抱え込んで封じながら自分のウエストに手を掛ける。
敬吾からはスカートの影になって見えないが、痛いほど膨張しきってもう濡れていた。
逸が苦笑したのを見て、敬吾が思わず横を向く。
その隙にスカートが一気に尻と鼠径まで上げられた。
「っうわ!!」
「あーーー……、やばいな」
また低く乾いた声で独りごち、敬吾の狼狽など視界にも入っていない様子で逸はその内腿に頬と唇を寄せる。
「すげえ綺麗…………、」
「っ…………!」
顔を上げると、逸は羞恥に塗れた敬吾の顔をとっくりと眺めた。
その沈黙に敬吾がやっと怯えているような横目をくれると、ふと微笑んで口を開く。
「敬吾さん、擦って良い?」
「ーーーーーーへ?」
敬吾の応えなど元より聞く気もない様子で逸はまた俯き、敬吾の膝を両手で掴んでその裏腿に猛り切ったそれを押し付け、擦り付けた。
「ーーーー!!?」
またゆるりと顔を上げ、擦り付けながらも逸が敬吾を見つめる。
愕然として慄いてでもいるようなその表情が、どうしようもなく可愛らしい。
どう見ても愛情や興奮の類は感じられない表情だがそれでも良いと思える辺り、やはり締め上げられ過ぎた理性のねじは山がすっかり舐めてしまったようだ。
くるくる空回りして、貪欲な衝動がたらたらと漏れて体に満ちていく。
「ん………」
眉根を寄せて揺れる逸の表情を、敬吾は信じられない思いながらも吸い寄せられるように見つめていた。
陶酔しているような目元、僅かに開いた唇が、妙に耽美的だった。
そうして呆然としていた敬吾の肩がびくりと揺れる。
膝の裏あたりのぬるい感触と、険しくなった逸の表情、切羽詰まったような振動。
心臓が急に暴れだして、敬吾が自分の口をふさぐ。
逸が深く吐息を逃し、敬吾の手を取って唇を合わせた。
吸い合うような濡れた音が、頭の芯を麻痺させていく。
逸の手がゆっくりとブラウスのボタンを幾つか外し胸元に差し込まれると、焦燥に焼かれるような気持ちになる。
触れて欲しいが恥ずかしくて、どうして良いのか分からなかった。
敬吾のその表情がまた逸の興奮に火をくべる。
「凄いな、エロい…………」
「っばか、」
下着の上から柔らかく揉まれ、敬吾がひゅっと息を呑んだ。
引き摺られてなけなしの胸の肉が波打つのも、吸い付くようなその感触が先端に張り付いては剥がれるのも堪らなかった。
「やだ、逸ぃ……」
「うん?」
「揉む、なよ……」
「じゃあ、取ります?」
「ーーーー……」
それもそれで恥ずかしいのだがーー
進退極まって、敬吾が微かに頷いた。
凶悪な微笑みを浮かべて逸がパットを剥ぎ取ると空間ができ、半端に胸が覗く。
そこにまた手を差し込んで揉みしだき、敬吾が恥ずかしがるのを十分目に焼き付けてから鎖骨まで下着を押し上げると先端を舐め上げた。
強く吸われて、敬吾がやっと甘く声を漏らしだす。
頭を撫でられ、満足げに笑うと逸はまた敬吾の脚を撫で、口づけ、天蓋のように伸し掛かって敬吾を眺めた。
その視線が耐え難く、敬吾が顔を背ける。
その先には、逸の中心が濡れそぼったまままた屹立していた。
敬吾の眉根が切なげにきゅっと寄る。
「……………いち」
「はい」
「それ…………」
「はい?」
「舐めてい?」
「…………………」
「っ!」
敬吾がとろりと眺めていたそれが、筋立って強く脈打った。
敬吾が目をそらす。
逸は、昂り険しくなった顔を敬吾に寄せた。
「……お掃除フェラ?」
「ばか、」
「お願いします……」
「っ……………」
「あ、でも」
「?」
「俺の上、乗ってください」
「………………?」
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