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褒めて伸ばして 31
「乗る……?ってどう」
「こっちお尻」
「………………」
敬吾と向かい合わせにしゃがみ込み、逸はちょいちょいと自分の顔を指差してみせた。
数秒それを眺めて、結局敬吾は首を傾げる。
「だからね?」
そのまま後ろに背を倒し、肘をついて今度は股間を、続いて顔を指し示した。
「敬吾さん、頭ここ。お尻ここ」
「やだよ」
「やだっつったって」
互いに渋い顔を見合わせ、しばし沈黙する。
「やだよ。」
「してもらいますぅー。」
「やだって!変態かよ!!」
「そうですよ?知ってるでしょ……っていうかそんな変なプレイでもないでしょこれ」
「でもやだ!!!」
「敬吾さん?」
逸の声がまた妙な迫力を帯びた。
僅かに増しただけの音量にはそぐわない圧力に、敬吾が押し黙る。
「ご褒美ですよねえ」
「限度ってもんがーーーー」
「俺ちゃんと我慢したでしょ?25日、敬吾さん目の前にいんのに。したいならしてもいいって言われてたのに。我慢。しましたよね?」
「したけど…………」
「なんのために靴だのパンツだのまで用意したと思ってんですか、俺が愛でるためですよ」
「だろうけど………………」
「今日だって何回勃起しちゃー治め勃起しちゃー治めしたかーー」
「もおーーー!」
真顔で淡々と言い含められ、敬吾は逸の一言ごとに反論の意欲が削ぎ取られていった。
もうひとつも隠す気がないのだ、この男は。
恥だの理性だのに捕らわれている自分が勝てる相手ではない。全く羨ましくはないが。
「分ぁかったよもおおおぉ…………」
敬吾が心底げんなりと俯いても、逸は恐れ入りも恥じ入りもせずにっこりと笑う。
「やったあ」
「お前頭おかしいからな!ほんっっと頭おかしいからな!!!」
「敬吾さんに嫌われなきゃなんでもいいんですよそんなもん」
「…………………っ」
「はい、敬吾さん!」
ぱんぱんと逸がベッドを叩き、行儀の悪い子供のような催促をする。
「お前後で覚えてろよ…………」
「んー、またお預けですか?きついなあ……でも頑張ります」
「うっせえ!」
「敬吾さん」
「…………………っ」
敬吾が心底嫌そうな顔をし、後ろを向いた。
逸はうきうきと見守っている。
そのまま嫌そうに逸の腹あたりを跨ぎ、
ーー腰を下ろした。
「……………なにしてんすかもうっ!」
敬吾が機嫌の悪い猫のような唸りを上げる。
逸がその腰を掴みずりずりと引き寄せていた。
情け容赦ない力技に、敬吾は指先で裾を下ろしておくことしかできない。
「敬吾さん、ーー舐めてくれるんでしょう?」
「っ………、」
敬吾の頬がまた、肌が薄くなったようにほわりと赤くなる。
撓るように上体を倒すと、指先からはどうしても力が抜けた。
その唇が逸の先端に触れた瞬間に、思い切りスカートがたくし上げられる。
当然敬吾は腰を上げるがーー骨盤を抑えられていて、ほとんど離れられない。
「あーーーやっべ……」
「ぅーーーー………」
「敬吾さん、舐めて?」
逸が僅かに腰を上げ、濡れた鈴口が敬吾の口の端に触れる。
それを敬吾が口に含むと、逸が尻を撫で回した。
羞恥と咥内の圧迫感とで顔を歪ませつつ、纏わりついた精液と溢れ出る先走りを丹念に舐め取る。
顔が傾く度流れ落ちる髪の毛を何度も除けながら、敬吾は頭の端の端で世の女性は大変だなと考えていた。
自分の体の一部ですら、こんなに長いと重いし厄介だ。
ブラジャーは重みなど加わっていないはずなのに肩が凝り始めているしストッキングの圧迫感も不愉快だった。
それどころか本来はこの他にメイクだネイルだアクセサリーだと更に重りは増えるはずでーーー
ーー考えるだに鬱陶しい。
弾けるような小さな音を立てて逸のそれを口から出し、また濡れ始める滑らかな亀裂をぼんやりと見つめてーー
ーー裸になってしまいたい。
そう思う。
その束の間の哀愁じみた陶酔は、自分の尻がびくりと引き攣ったことで乱暴に終わった。
「ーーーっな、何、なにっーー」
懸命に振り返るも未だに腰が固定されていて首が動く範囲でしか確認できない。
その限りではーー
そして、感触もそれを裏付けるのだがーー
ーー逸がそこに、顔を埋めていた。
「やっ、やだ馬鹿!やめろっ、て!!」
逸は当然聞きもしない。
ところ構わず食まれ、舐められ擦られして敬吾はもうどうしようもなくなった。
張り詰めさせていた背中は力が枯渇し、軽く立てられている逸の膝に縋るようにしなだれ掛かる。
そうなると逸が一層調子に乗るのだが、やはり脚全体を覆う膜が感覚を篭もらせた。
逸が膨らみを口に含んでも、谷間を舌でなぞってもその奥まで強く踏み入ろうとしてもしなやかに阻んで、鬱陶しくてもどかしくて半端な熱が灯っては燻って消えるばかり。
敬吾の瞼がとろりと落ちる。
内腿を、鼠径部を舐められてもやはり熾火のような焦燥が募るばかりで苦しかった。
物欲しそうに揺らぎ始める腰に、逸が口の端を上げる。
「敬吾さんーー」
「へ………」
「どうしたんですか?」
「……………」
「何か、してほしいの?」
「ーーーーーー」
優しい口調で問われ、敬吾が逸のズボンを握り込む。
意地悪で聞いているのではないようだった、逸には恐らく分からないのだ、このもどかしさが。
いつものようにしているはずの逸の感触が届かない。
もう待ってしまっているそこに、触れそうで触れない。その辛さが。
「敬吾さん?」
優しく腿を撫でられて、敬吾がどうにか口を開く。
「ーーちゃ、ちゃんと、触って……ほしい、全然さわって、ない………」
「ーーーーーーー」
逸がぽかりと口を開けた。
冷水でも浴びせられたように強烈に理解する。
この、敬吾の谷間をなだらかにしてしまう布の張力。
それを、逸は紙くずのように引き裂いた。
「えっーーーーー!!?」
そうしてその裂け目ごと下着をずらし。
きっと焦らしに焦らされていたであろう敬吾のそこを、舐め上げた。
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