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彼の好み リベンジ 9
「お待たせしました、サングリアとコーラですねー、こちら生ハムとチーズ盛り合わせ、コブサラダでーす」
「ありがとうございますー、うまそー!」
極彩色の料理に顔を綻ばせながら逸が大きなグラスを上げる。
敬吾も同じく杯を持ち上げ軽く当てると、小さく「えーと」と口を開いた。
逸が首を捻る。
「……………誕生日おめでとう………?」
「……えへへ、ありがとうございます」
「過ぎてるけどな…………」
心底嬉しそうに笑う逸を直視できずに敬吾は視線を逃した。
それがまた逸の口元を緩ませる。
「敬吾さんのそれなんですか?」
「ワインに果物浸けたやつ」
「へー、うまそう」
「まあ甘くてジュースっぽいけど」
「へー…………」
「……ひとくち!」
「絶っっっ対ダメ。」
「お待たせしましたー、生春巻きです。そのフルーツ、アイスと一緒に召し上がってもおいしいですよ」
「あー、美味そう!」
「お前はダメだっつーの!」
「うふふ、シュラスコすぐ来ますからねー」
逸の満面の笑みと女性の微笑ましげな表情が敬吾には眩しすぎて剣呑だ。
必要以上に乱暴に、生春巻きにかぶり付く。
「んっうまっ」
「サラダもうまいっすねー、こういう謎のドレッシングが俺には作れない…………」
不本意そうではあるが感激しているらしい逸の瞳が更に見開かれてぱちくりと瞬くので、敬吾もその視線を追った。
ーーワゴンでごろごろと運ばれてくる。
巨大な肉が。
「すげっ!」
「お待たせしましたー!」
運んで来たのは頭にタオルを巻いた大柄な男性で、迫力と景気の良さがいや増した。
「ちょ……っとこれはほんとに写真撮っていいですか!」
「いいよー、男前に撮ってねー」
「いやお兄さんは……いや、はい」
「お客さんひどいなぁ」
とりあえず逸は、肉切りナイフを構える男性を一枚だけ撮影したらしい。
「どんくらい行きましょ?」
「山で!」
「山で!承りましたー」
肉の山を築き上げた後、逸とサムズアップを交わして店員はワゴンを引いていき、敬吾は別の人種を見ている気持ちになっていた。逸も含め。
が、肉はやはり文句無く旨い。
「うまー。幸せ!」
「ぶふっ」
逸が余りに幸せそうに言うので敬吾はしばし咽てしまった。
「そんな笑いますー?」
「お前……ほんとに犬みてえだな!」
「だって嬉しいんですもんー」
困ったような逸の笑顔が直視できない。
本当に今日、逸はだだ漏れだ。
嬉しいだの、美味しいだの愛しいだのなんだのかんだのーーーー
「敬吾さん?」
「えっ、ん?」
「大丈夫ですか?」
「うん……」
敬吾が空咳をする。
柄にもなく、嬉しくなってしまっているだけだーー。
逸は首をひねり、間を繋ぐようにメニューを開いた。
不思議そうではあるがやはり、幸せそうだった。
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