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彼の好み リベンジ 8
「遠いって言ったでしょ?」
「ここまでとは思わねーよ普通……」
二つ三つ先の地区だの隣の隣の町だの、そういった話ではなくバスを降りたそこはもはや山であった。
一応国道ではあるらしい、生え初めの夏草にガードレールが隠れてしまっている道を少し戻って交差点を曲がる。
車が一台通れるかどうか、という童話のような小径の先に僻地らしい広大な敷地が開けた。
ロッジハウス調の店内もやはり広い。
いつの間にか半歩先に立っていた逸の少し後ろで敬吾は何くれなく気軽な雰囲気の店内を眺めた。
小柄な女性が迎え出て、朗らかにお決まりのやり取りをしている。
「お席、店内とお外ございますよ」
「え!じゃあ外で!」
「えっ!?」
敬吾が驚いて向き直った頃には二人は歩き出しており、逸が振り返って手招きをしていた。
「男二人で外かよお前……」
「むしろ女の子いたらまだ外は無理ですよー」
「そりゃそうだけど」
案内されたウッドデッキもやはり広い。
テーブルにキャンドルなど灯されてしまい、敬吾はげんなりと肘をついたが逸は爆笑していた。
「これはあれですね、SNS映え?」
「どっちもやってねえだろー」
が、人目にはそう思われていたほうが楽ではあるか。
メニューを見ながらそう思い、ふと逸の顔を見上げて敬吾は息を呑んだ。
さっきまで馬鹿笑いしていた逸が真っ直ぐに敬吾を見つめ、微笑んでいる。
「なんっ、……なんだよ……」
「あ、ごめんなさい」
ーーそういう目を、外でするな。
頬が熱い気がしたが揺らぐ灯りがごまかしてくれている気がして、敬吾はグラスに入った蝋燭に感謝した。
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