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彼の好み リベンジ 11

「ありがとうございました、またお越し下さいね」 送り出してくれる女性に笑顔を返したのは敬吾だった。 本来社交性満載の逸は、いよいよ呆けて魂を手放してしまっている。 「おい、どっちだ」 分かれ道に出てそう尋ねる敬吾の声に、逸はぱちぱちと目を瞬かせた。 「ーーあ、右……ですけど……敬吾さん本気?」 「はー?なんだよ今更」 「だって…………」 一言たりとも怒鳴られないとは、欠片も思っていなかった。 不可思議が過ぎていっそ困ったような顔をしている逸を、こちらも困ったように敬吾が覗き上げる。 「だって味気ねえだろ飯だけじゃ……一応誕生日だろ」 「いやなんか無理聞かせてるみたいで」 これには本当に呆れてしまい、敬吾は盛大に溜め息をつき半眼で逸の犬顔を見た。 全く、全くもって今更である。 この男が自分に無理を聞かせることなど今に始まったことではないのだ。 むしろ、そうでなかったことがあったのかと敬吾は問い詰めてやりたくなる。 「……それ貸せ、上着」 「あ、はい」 生活圏外だとは言え誰かに見られて良いわけではない。 逸が慌てて寄越した上着を羽織ってフードも被ると、もしや逸もこのために少々季節外れの上着を着てきたのではないかと思えた。 大きなフードに顔を埋めて俯くと敬吾が小さく口を開く。 「ーー俺だって一応、喜ばしてやりてえとは思ってんの。思いつかねえけど。」 「ーーーーーーー」 「行くぞもー……人来ねえうちにー」 「はい、………………」 あどけない声音をごまかすように、不機嫌そうに歩き出した敬吾を追い、逸はその手を取った。 フードの奥でびくついた敬吾がこちらを見た気がするがーーそれが睨んでいるのか照れているのか、フードのせいで分からない。 だから、ここはもう一つ甘えさせてもらおう。 指を絡める感触を、逸は五分足らずの間満喫することにした。

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