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彼の好み リベンジ 12

「綺麗だな」 「そりゃ敬吾さんをボロボロのとこには連れていけませんて」 部屋に入るなり後ろから抱き込まれ、逸の吐息に首を暖められながらも敬吾は少々滑稽に部屋の中を流し見た。 この立地だからそれはもう廃墟じみたところかも知れないと思っていたのだが、驚くほど広く、落ち着いた雰囲気で清潔だ。 「また下調べ……」 「ふふっ、そうですよ?男二人でも大丈夫で、いい感じに帰れなさそうで良さそうな店あってーー」 そこには夜限定のメニューがあって、歩いて行けて綺麗で、か。 「執念がやべえ」 「あはは」 しみじみと肯定しながら逸は腕を解き、敬吾の上着を脱がせる。 有り難いことにフードが役に立つことはなかった。 髪を梳いてやりながら、その僅かな危機感を敬吾が冒してくれたことにも嬉しくなってしまう。 またも開けっぴろげなその笑顔が、敬吾のことも薄く笑わせた。 「ーーーーーー、」 「……?なに?」 「あ、いえっ」 真っ赤になった顔を背ける逸を不思議そうに見上げ、敬吾は首を捻る。 逸は慌てて空咳を連発した。 本当に、いつまで経っても自分はこの人がふと見せる笑顔に慣れない。 「……お風呂見てみませんか!」 「?うん……」 油の切れたロボットのようにがたがた歩いていく逸を、敬吾はやはり不思議そうに眺めながら後に続いた。 「うーーわっひろっ」 「あーーーダメだこれ敬吾さんゆったりしちゃうやつだぁ…………」 嬉しげな顔をする敬吾の後ろで、逸はやや苦々しく笑っていた。 「よし、溜めるぞ」 「えーーー、後にしませんかーーーー」 「後って……、」 がぱりと後ろから回された腕の中で、渋い顔をして敬吾は考える。 逸としては色気も何もない雰囲気になってしまうのが嫌なのだろうが、後ではーー それこそ元気も何もない。 どうせ滅茶苦茶な有様に決まっているーー 「ーーーー、」 「……?」 腕の中で、敬吾の心臓が強く打つ。 逸が不思議そうに斜め上を見上げるが、その視線が顔に届く前に手で顔を押しやられてしまった。 「んぐ、??」 「……入る!」 「えーー、もー……」 仕方なく逸が腕を緩めると敬吾はさっさと湯を溜め始めてしまう。 拗ねたように逸はアメニティなどいじくり回した。 「すげー、充実してんなー」 「女子会やるくらいだもんな」 「ぶはっ!敬吾さん!見てコレ!」 「んー」 脱衣所から逸が馬鹿笑いしながら顔を覗かせる。 「ローション風呂の素!やります!?」 「……。俺そういうの、これで年間何人か死んでんのかなって考えちゃう方だから却下。」 「ロマンも何もない…………」 「それで事情聴取とかほんとやだし」 「死ぬの俺なんですね……………」

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