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彼の好み リベンジ 15

「敬吾さんてバスローブ似合いそうですよねー」 「似合うも何もなくないか、そんなの」 「いや俺これ見て下さいよ」 「ぶふっ」 別段笑わせようとしているわけではないはずだが、何やら落胆したような半眼で敬吾の方に向き直る逸は確かに滑稽だった。 「なんで着たってレベルだな!」 「なんだろう……なんか着られてる……?」 「お前大概の服は似合うのになあ」 「おお……さらっとすげぇ嬉しいお言葉ありがとうございます」 逸はさほど服に拘りはないが、安物のジーンズとシャツだけでもまず様になる。 敬吾が見たことはないがスーツやロングコートの類も恐らく着こなすだろう。 そう思うから言っているだけで過度に褒めたつもりはないのだが逸はたいそう喜んでいて、しかしやはり特別なことを言った気のない敬吾はそれを無視してまじまじと逸を眺めていた。 身長も体格も顔も悪くないはずなのに何故こうもコントじみてしまうのだ。 「やっぱ敬吾さんは似合いますー」 「だぁっ、脱がすな!喉乾いた」 合わせ目に伸びた手をびしびしと叩いてやって敬吾は冷蔵庫を開け、逸は素直に離れてソファに座り、冊子を開く。 「お前は?」 「んー、ちょっとください」 「うん」 「あっ、敬吾さん!コスプレのレンタルありま」 「しねえっ」 「まあ確かにサイズがね」 「あってもしねえよ!」 「あとこう生地がなんか……ペラペラ」 ペットボトルの尻で逸の額を叩き敬吾がソファの端に腰掛けると、逸が一気にその距離を詰めた。 ばふんと敬吾が跳ねている間に伸し掛かって肩に頭を預けると、敬吾の膝にも冊子を半ば載せてそのまま眺めている。 まるで飼い主がどこへも行かないよう牽制している犬のさながら、いやらしさも何もなくて敬吾は笑ってしまう。 「犬だな……」 「……えへへ」 とは言えやはり長閑な時間は、そっと内腿に割り入る逸の指先で緩やかに終わりを告げられた。

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