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祝福と憧憬 12
「ーーお前さ、なんかあったか?」
「え?」
ベッドに腰掛け、敬吾は風呂から上がって来た逸を見上げてそう言った。
逸はぱちぱちと瞬いた後ふっと目を細める。
その微笑みも妙に大人びていてーーいい年をした男にそんな感想も妙なものだがーー敬吾は内心眉根を寄せた。
逸は無言で敬吾の隣に腰を下ろす。
「どうしてですか?」
「っ、いや、なんとなくーー」
ぐっと近寄った逸の顔に敬吾は俯いてしまいつつ、息を詰めた。
その圧迫感も、肩に回った腕もいちいち力強い。
思ったとおりにまた強く唇が触れる。
逸は答えるつもりはないようだった。
ほとんど反射で敬吾の瞼が落ち、すっかり甘くなった唇が啄み合う。
それが僅かに深くなり、吸い付く合間に逸が敬吾を呼んだ。
敬吾が何も応えられずにいると、腰に腕が下り耳元に逸の唇が触れる。
「……疲れちゃいました?」
「ーーーう、いや……」
また逸は何も言わず、口付けながら敬吾をベッドに押し伏せた。
頬へ、喉へと唇で這ってふいと敬吾を見上げると、眉根を寄せて何か言いたげな顔をしている。
ーー自分はまた、この人を困らせている。
悲しげに笑い、それでも熱に抗えずーーいや、抗おうとせず。
逸は敬吾の手を封じ、届くところ余さず食み、舐めた。
泣いているような敬吾の呼吸が胸を圧迫する。
「…………っちょ、……っいち……………っ」
敬吾の肌はもうどこに触れても切なげに引きつり、声は涙と速い呼吸を含んで滲んでいた。
ーーもうこのまま、溶かしきってしまいたい。
自分の腕の中で。どこへも行けないように。
「敬吾さん………」
敬吾の手を離し内腿に口付け、跡を付けて、逸の唇はそのまま脚を下った。
「ゃ………、」
小さな悲鳴のような声は聞こえないふりをし、逸は足首の腱を食んでくるぶしに口付けた。
それがまた先へと腱を辿っていくと、敬吾の背中がぞくりと震える。
「……っ逸っ!ちょっ、待てっ」
今度は完全にそれを無視し、逸は強く足首を掴んで指の間に舌で割り入った。
「やっ!やめろ、って………っ」
また黙殺される不安と濡れた音、ざわざわと背中まで震わせる感触が敬吾の頬を赤くする。
「逸!……ほんとにっ、」
やっと唇は離れたものの、逸は人質のように足を掴んだまま敬吾を見下ろした。
その妙に冷たい、挑発的な薄い笑みに敬吾は眉根を寄せ、肩を縮める。
「ーーーーーっ?」
「じゃあ、敬吾さん」
「へ……っ」
「俺のこと、蹴って止めて」
「ーーーー」
「昔みたいに………」
「………!」
敬吾が言葉を失うと逸はまた鷹揚に笑いかけ、その足の甲に、ゆっくりと唇を押し当てた。
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