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酔いどれ狼 12
重く大きく揺さぶられ続けて、その度体の芯が揺らぐ。
自分が蜃気楼にでもなったような気分だった。
その熱の中幾度も敬吾が逸を呼び、その声にふと違う響きを感じて、逸は敬吾の中心を手に取る。
「っん………!」
「敬吾さん、いきそう?震えてますね」
そこを撫でられるのは、久しぶりだった。
優しく擽ったい触れ方に敬吾の肩が縮み、切なげに眉根が寄る。
声も更に艶を増して、逸の方はいかにも意地悪げに笑った。
「……触られるとちょっと辛い?」
どこかからかっているような逸の言葉に、その不穏さには毛ほども気づかずに敬吾は頷いた。
快感であることは間違いない。
けれど、両腕を左右から引かれるような、緩衝のない刺激に捕らわれているような感覚。
既に無い敬吾の余裕はさらに削り取られるばかりだった。
「……敬吾さん、すごい締まってる。やばい……」
「っ…………!」
逸の声からも余裕がなくなり、律動が激しくなる。
こうして素直に自分の体に快感を見出されることも、なにか擽ったいような気持ちになった。
きっと嬉しいのだろう。
けれどそれを自覚してしまうとやはり手に負えない感情のような気がして、できなかった。
敬吾はただ、激流のような熱と快感に体を預ける。
その果てはもう、すぐそこだったーー
ーーが。
「……………っ!!?ーーんーーーー………!!!」
「あーー…………」
昇り詰めたと思ったその先に、快感と解放感はなかった。
目の前が激しくちらついて、明るいような暗いようなーーー
「え…………っ、なに、やーーー………!」
「敬吾さん……、綺麗です」
うっとりと陶酔したように敬吾の顔を見下ろし、逸の顔は緩んでいた。
が、その手は腱が浮くほど強く、未だ膨張したままの敬吾のそれを握り込んでいた。
その先端は、悲痛に震える割れ目が不完全な射精を繰り返すように僅かばかりの雫を零し続けている。
その代わりに双眸が大粒の涙を零した。
「なにっ?いちっ、逸ーー…………!」
「敬吾さん、可哀想に……」
そうは言うくせに、細かく痙攣する敬吾を解放してやる気はないらしい。
未だうっとりとその様を眺め、逸は圧迫は緩めないままにもう片手でそこを撫で上げた。
敬吾が小さく、しかし鋭く叫びを上げる。
長いことそうして嬲られて、逸の手がようやく止まった頃にはぐったりと手も足も捨て置くように放り出し、張り裂けそうな呼吸だけを繰り返していた。
そして逸の手に奪われていた感情が敬吾の中に戻ってくると、改めて涙が溢れ出す。
「……っう、……ぅーー………」
「敬吾さん、辛い?イケないですもんね」
ぼんやりと聞こえる逸の問いかけに、敬吾はどう応えて良いのか分からなかった。
今の自分には、辛いなどという言葉は当てはまらない。
心も体も雑ざりあってひと塊になり、それが熱く膨張しているような。
今にも崩壊してしまいそうな、そういう、ひどく憐れなひとつの存在だった。
それでも酷な接触が無くなり僅かにでも射精感が引いてくると、驚くほどに状態は落ち着いた。
人の形を取り戻して、五感にも余裕が戻る。
そうして大きく呼吸をすると、逸がふと笑った。
生殺与奪を握るような、敬吾を好きにしている感触は酒より激しく逸を酔わせる。
「敬吾さん、イキたい?」
微かな平穏の中もたらされた逸の言葉に、敬吾はそれを振り仰ぎ必死に頷いた。
一挙に体が期待してしまって逸に吸い付き、それが快感を産んで声が溢れる。
また泣きたくなった。
相も変わらず逸は醜悪に笑っているが、抱き潰してやりたい一方で全て捧げてしまいたくなるから倒錯している。
「……じゃあ、一緒にいきましょうね」
「へ……………?」
ぐっと腰を押し上げると、敬吾の瞳が逸を捉えたままに細く細く潜められてあまりにも切ない。
「俺がイく時、離しますね」
「ーーーーーー」
やたらあどけなく笑う逸の顔を、敬吾はただ呆然と見上げることしかできなかったーー。
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