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したいこと? 6
本当に泣き出しそうなその声は、期待以上の反応だったが。
「顔がこえぇよ!!!」
「当たり前でしょ!!想像しただけで死にそうなくらい腹立ってんですよ!!!!」
狩りでもするように開ききった瞳孔が鋭く敬吾を睨めつける。
深く刻まれた眉間の皺、低く押さえつけられて地鳴りのようになった声、更に戦慄く手で腕を掴まれては敬吾も流石にびくついた。
「ほら見てもうっ」
強く掴んだ敬吾の手を、逸は自分の胸にあてる。
まるで血肉に直接手を浸しているような錯覚を起こすほど、激しく生々しく心臓が暴れていた。
なんだか痛々しくなって敬吾が眉根を寄せると、逸も疲れたように表情を緩めた。
気づくと敬吾の手首を持ったその手が震えている。
「……そんなことされたら俺、多分その相手ぶち殺しますからね」
「……俺に怒れよそこは……、っていうかもしもの話だっつーの」
逸はきゅっと眉根を寄せて敬吾を見た。
そんなことできる訳がないではないかと、くっきり顔に書いてある。
その顔が近づいてきて、また優しく唇が触れた。
「冗談でもやめて下さい」
「お前が良い子にしてればあり得ねえって」
「そのもしもこそあり得ないんですって」
また唇が触れる。
いくらか深く啄まれ、敬吾が切なげに目を細めた。
全く、想像以上の狼狽ぶりだーー
「……敬吾さん、なにか俺にしたいことないですか」
「……んっ?」
薄い薄い唇の合間に逸が囁く。
「俺は、敬吾さんのものですよ」
不覚にもぞくりと背中が震えた。
言葉を失って、敬吾が肩を固くする。
「何言ってんだ………」
「絶対無いんですよ、敬吾さん以外にふらつくとか」
「え、おう………」
「信じて欲しいんですけど、今日やらかしちゃったのは俺なので」
苦笑した逸の顔が僅かに離れる。
「……やっぱお仕置きしてほしいな」
「………………」
「…………そういう意味で?」
「そういう意味で」
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