222 / 280

アクティブレスト 12

「あ。岩居くんお疲れー」 「あれ、九条……、あれ?木曜いたっけ?」 「ううん、葵ちゃん迎えに来ただけ」 「おぉー」 「岩居くんも一緒に行かない?飯」 「まさか」 「いやいや、他にも何人かいるよ」 「ああ、なんだ」 とは言え。 「今日はやめとくよ」 「そっか」 九条は腕時計を見つつ、そのまま敬吾の向かいに腰を下ろした。 「葵ちゃんとはどうなんですか最近」 「んー?うんー、可愛いね」 「……本人に言えよ?それ」 以前葵から相談を受けたことを思い出しつつ、敬吾は苦笑する。 「いやーーそれはなかなかね!」 「俺九条ってそういうの言いまくる方だと思ってた」 「人をそんなタラシみたいに」 「いやいや……なんかこうさ、下心ない感じで、髪切ったんだ似合うねーとかいつもネイル可愛いねーとか言ってるイメージ」 「あー、そういうのはだって挨拶と一緒じゃない」 「こわっ!!なんだよそれ!!」 「なんとも思ってないから言えるのよ」 「いや、まぁ分かるけど………」 さすがに心配になってしまい、余計な口出しまでしそうになったところで敬吾の携帯が鳴った。 逸からである。 敬吾が断る前に、九条はどうぞと掌を出していた。 「ごめん。もしもし?」 『ーーあ、お疲れ様です……』 どう聞いても声が暗い。 用件を半ば理解してしまう。 「お疲れ。どうした?」 『すいません敬吾さん、やっぱり今日無理そうで………』 「そうか……」 『ほんとごめんなさい』 「いや俺に謝んなくてもいいって」 自覚している以上に声に出てしまったらしい。 大変なのは逸の方だ、手綱を握りしめるように敬吾は姿勢を正した。 「それよりお前がほんと大丈夫かよ、最近寝てんのか?」 『うん……大丈夫ですよ。今日はマジでがっかりしましたけど』 「まあ……つーか間に合うのか?ほんとに」 『どうなんでしょうねぇ?』 やや自嘲気味な笑い声が痛々しい。 思わず眉根を寄せ、敬吾は額を擦った。 その雰囲気を察してか、逸の苦笑から棘が抜ける。 『……多分大丈夫ですよ、今日はなんか逆に作業進みまくってて。明日新しい荷物とかケース来る前に進めるとこは進めようって感じなんです』 「そうか……」 『です。あ、じゃあーーすいません、また』 「うん、じゃあな」 また慌ただしく通話が切れる。 ゆっくりと携帯を下ろし、しばし見つめてから敬吾は九条に苦笑いだけ向けておいた。 「やっぱ飯行くー?」 「あはは、やめとく」 気遣いは嬉しいが、一人だけ楽しむ気にもなれない。 それにーーー 「買い物して帰るわ」 「そっか」 テイクアウトのコーヒーは飲みきらずに持って立ち上がり、九条に手を上げて帰路につく。 今日は、起きて待っておこう。 そう思っていた。

ともだちにシェアしよう!