223 / 280
アクティブレスト 13
ーーおはようございます、と爽やかなアナウンサーの声で敬吾は目覚めた。
いつの間にかリビングで眠ってしまったらしく体が痛い。
考えるまでもなく、部屋の中に人の気配はなかった。
一応起き上がって脱衣所や台所を見てみるがーー、食事どころか飲み物にすら手を付けられた様子はない。
(帰ってねえのか………?)
ため息をつき携帯を起動させるが、特に着信のたぐいはなく、一瞬だけ悩んで、敬吾は篠崎の番号を呼び出した。
熟睡していようが寝入りばなだろうが構うものか。
『ーーはい、もしもしー……』
「あ……おはようございます。早くにすみません」
『んん……、おはよう……』
やはり寝ていたらしい、篠崎の意識が覚醒するのを待とうかと思った瞬間、その時はいきなりやって来た。
『っあーーー、そうだ!昨日逸くんネカフェに泊まるっつってた……ごめんごめん!』
「えっ?」
『うちに呼ぼうかなとも思ったんだけど、かえって遠くてさ』
「いや……そうじゃなくて……」
なぜ逸の話になる?
いや、敬吾としてはそれで間違いないのだが。
別のところを本題として聞き出そうと思っていたのだ。
「なんで岩井の話……」
『……………あれ?なんでだろ。なんとなく』
「はあ………」
また眠気が戻ってしまったらしい篠崎の声は心底不思議そうで、安心したような、拍子抜けしたような。
「て言うか……、それならやっぱ俺も手伝いますよ、こっちはヘルプの人も経験者ばっかだし余裕で回ります」
『うんー、敬吾くんいてくれたら助かるけどねー………!』
苦笑しているのが目に浮かぶような、もどかしそうな声だった。
『でもやっぱりそっちの店の方頼むよ、そっちのこと安心して任せれるだけでかなり違うから』
「………そうですか」
『うん。昨日でレッドラインはなんとか超えた感じだし』
「そうなんですか?」
『うん。まあこれ以上何も起きなかったら、だけどねー……明日からは問屋さん達も手伝いに来てくれるし』
「そうですか………」
ーー結局、できることは何もないらしい。
頼られすぎるのも疲れるが、力になれないというのもそれはそれで辛いものだ。
それ以上何も言えず、篠崎も体を気遣うように付け足して敬吾は通話を切る。
纏わり付く無力感が、何をしても紛れなかった。
ともだちにシェアしよう!