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アクティブレスト 13

ーーおはようございます、と爽やかなアナウンサーの声で敬吾は目覚めた。 いつの間にかリビングで眠ってしまったらしく体が痛い。 考えるまでもなく、部屋の中に人の気配はなかった。 一応起き上がって脱衣所や台所を見てみるがーー、食事どころか飲み物にすら手を付けられた様子はない。 (帰ってねえのか………?) ため息をつき携帯を起動させるが、特に着信のたぐいはなく、一瞬だけ悩んで、敬吾は篠崎の番号を呼び出した。 熟睡していようが寝入りばなだろうが構うものか。 『ーーはい、もしもしー……』 「あ……おはようございます。早くにすみません」 『んん……、おはよう……』 やはり寝ていたらしい、篠崎の意識が覚醒するのを待とうかと思った瞬間、その時はいきなりやって来た。 『っあーーー、そうだ!昨日逸くんネカフェに泊まるっつってた……ごめんごめん!』 「えっ?」 『うちに呼ぼうかなとも思ったんだけど、かえって遠くてさ』 「いや……そうじゃなくて……」 なぜ逸の話になる? いや、敬吾としてはそれで間違いないのだが。 別のところを本題として聞き出そうと思っていたのだ。 「なんで岩井の話……」 『……………あれ?なんでだろ。なんとなく』 「はあ………」 また眠気が戻ってしまったらしい篠崎の声は心底不思議そうで、安心したような、拍子抜けしたような。 「て言うか……、それならやっぱ俺も手伝いますよ、こっちはヘルプの人も経験者ばっかだし余裕で回ります」 『うんー、敬吾くんいてくれたら助かるけどねー………!』 苦笑しているのが目に浮かぶような、もどかしそうな声だった。 『でもやっぱりそっちの店の方頼むよ、そっちのこと安心して任せれるだけでかなり違うから』 「………そうですか」 『うん。昨日でレッドラインはなんとか超えた感じだし』 「そうなんですか?」 『うん。まあこれ以上何も起きなかったら、だけどねー……明日からは問屋さん達も手伝いに来てくれるし』 「そうですか………」 ーー結局、できることは何もないらしい。 頼られすぎるのも疲れるが、力になれないというのもそれはそれで辛いものだ。 それ以上何も言えず、篠崎も体を気遣うように付け足して敬吾は通話を切る。 纏わり付く無力感が、何をしても紛れなかった。

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