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アクティブレスト 27

「うおー!敬吾くん!久しぶりだなおいーーーー」 弾けんばかりの笑顔を向けて、八幡は丸太のようなシルエットからその手を大きく振ってみせた。 敬吾は急ぐ様子もなく声の届く範囲まで近づいてから「お久しぶりです」と挨拶をし、逸は少々面食らっている。 敬吾の知り合いにこのタイプがいるとは思わなかった。 「岩井くんも久しぶり!ごめんなー全然顔出せなくて」 「いえいえ……」 逸は引き続き面食らっているが、八幡は気づく様子もなくざっかけない笑顔を向けている。 「さて何食う、やっぱ肉?俺ご馳走するから好きなの言ってー」 「えっ、いや何言ってんですか篤さん、割り勘でしょ」 「いやいや、ほんと迷惑かけちゃったからさぁ。修羅場だったんだろ?」 「それは岩井だけです、俺は2号店ほとんど噛んでないですからーー」 恐縮したような敬吾に八幡は盗賊のような大味な笑顔を向け、がっはっはと笑った。 本当に「がっはっは」と言った。 そしてその太い腕で敬吾の首を抱え込み、わっしわっしと頭を撫でる。 逸はいよいよ愕然とし、敬吾はその逸を乱れた髪の合間から睨みつけた。 ーーこういう人なんだよ、変な反応すんな。 (こういう意味かぁ…………) 「遠慮すんなっつーの!いい若いもんが!!」 名は体を表すとはよく言ったもので、八幡はとにかく篤いのだ。情にも義理にも、開けっぴろげに篤い。 やっと解放された敬吾が少しも不快そうではないことで、逸もこの人物を好きになり始めていた。 「相変わらずですねーーー、篤さん」 「よく言われるわーーそれーー」 わざとらしく困らせた顔をぐりぐりと傾げ、八幡はまた豪快な笑顔になる。 「まあとにかく食おう!んじゃ焼肉にするぞー?近くに知り合いの店あるんだ」 そう言って八幡が案内した店では、八幡は先陣切って次々注文し、次々食べた。 これもまた、気遣いと言えば気遣いか。 「今更ですけど篤さんなんでいきなり店長に?」 「あー、ちょっと前親父が倒れてね」 「えっ!?」 「いやいや、もう全然大丈夫なんだけどね?まあでも一月くらい入院しててさ。もともと子供出来たら地元に引っ込んで子育てしたいよなーって嫁とも話してたし、ちょっと早いけどまあ潮時なのかなってことで」 「あ、結婚してたんですね。おめでとうございます」 「どうもどうも」 わざわざ箸まで置いて頭を下げ合う八幡と敬吾に、逸は米を詰まらせそうになる。 「んでたまたまこっちで店長と会って、やってみないかって言われてさ。俺接客業も好きだし」 「へえー……」 はい食って食って、などと言いつつ取皿に肉を配りながら、八幡はやはり豪快に苦笑した。 「まあーでも強行軍過ぎて皆には迷惑掛けまくっちゃったけどね!今日からガンガン働くからさー」 「いや、八幡さんがどうって話じゃなかったですから。連絡の不備だの什器がこないだのばっかで」 「ああーーあの事故な。俺もあの時、最後にどうしてもって言われて取引先に行ってたのよ。したらやっぱ地元の人ってすげーね、本降りになる前に帰れって迂回路とかも全部教えてくれた」 「あーなんかすげえ篤さんっぽい……」 「そー?」 照れくさそうに八幡が笑うと、今度はサービスですと店員がやって来た。 これもまた八幡らしい。 「あっじゃあ一緒に追加いい?」 「はいっありがとうございまーす」 「あっ待って篤さん、俺もう無理です」 「えっそう?岩井くんは?」 「すいません俺もギブです、この後動くし」 「なんだよー」 店員に軽く謝り、残りを平らげつつ逸と八幡は作業の進捗具合について話していた。 敬吾は拍子抜けしたように瞬く。 「なんだよ、あとそれだけ?そこまで頑張ったんなら余裕だろ、篤さん入るんだし」 「いや敬吾さんは仕事速いからそう言いますけどねーー?」 「いや俺は関係ないけど篤さんがさ。凄いから」 「おいやめろやめろあんま褒めるなー?特上カルビ追加しちゃうよー?」 「ほんと勘弁してください………」 敬吾が頭を下げるとまた八幡は「がっはっは」と笑った。 「まーそんな褒められちゃ頑張んないわけにもいかねーな!……よしじゃあ行きますか!」 「ですね」 店を出ると、大学へ向かう敬吾、逸と八幡とで別方向になる。 逸は八幡の車の助手席に乗り、昔の敬吾の話しなど聞きつつ、2号店へと向かった。

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