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後藤の受難 3

「え………男?」 「そうだよ、だから君らに相談したの」 後藤に腕を掴まれて連れてこられた人物は、背丈こそ女性並みに小柄なものの色を失った顔は確かに男性だった。 「ちょっとそっち座らせてやって」 捕まえておきたいわけでもないが、なんとなく奥の席を勧め、敬吾を後藤と並ばせたくない逸は後藤とともにその向かいに腰を下ろす。 敬吾は座りながら問題の人物を流し見るが、どうもそういう非常識なことをしでかしそうには見えなかった。 驚いているからか上気しているが、どちらかと言えば恐縮しているような顔をしている。 「ええと……、あのーーーー柳田と、言います」 小動物のような幼い見た目からは意外なほど、彼ーー柳田は落ち着いた口調で名乗ってみせた。 やはり不安そうではあるが。 意外そうに瞬いた後、後藤はごく気軽に口を開く。 「俺になんか用でもあった?」 が、柳田は緊張したように口をつぐんでしまった。 「お兄さん別に怒んねーから。言ってみ」 丸きり子供扱いである。 柳田は叱られてでもいるように肩を縮め、しばらく逡巡した後ようやく口を開く。 「あの……自分この見た目なので、よく絡まれるんですけど………以前そちらの方に、助けていただきましてーー」 逸と敬吾が意外そうに後藤を見るが、本人が一番驚いていた。 「その時まともにお礼も言えずに……もしまた会えればと思ってたんですが、生活圏が被ってたようで。今日みたいに何度かお見かけしたのに、えーーーと」 徐々に徐々に小さくなっていく柳田が、可哀想に思えてくる。 逸と敬吾は、つかまり立ちをする赤ん坊でも見るように今助けようかどうしようかと二の足を踏んでいた。 結局それを破ったのは敬吾だった。 「……怖くて声掛けらんなかったって言っていいと思うよ?」 「いっ、いえいえ!滅相もない!」 相当に失礼な物言いをされているものの、慣れているのか後藤は渋い顔で朧げな記憶を辿っている。 「覚えてねーな?」 「はい。」 こちらも敬吾に助け舟を出され、後藤はこっくりと頷いた。 柳田は拍子抜けしたようにぽかんと口を開けている。 「まあそんなこともあったかもしんないけど、俺覚えてないし。まあお気になさらず?」 こちらも拍子抜けしたように背もたれにもたれながら後藤が言うと、柳田は齧り付くように首を振った。 「いえっ!!俺はもうほんとにっあの時怖くて!!まさか助けてくれる人がいるなんて思ってもみなかったので感動して…………本当にありがとうございました!」 「いやほんとに……大したことじゃないって、気にすんな」 「凄いことですよ!」 「お、おぉ……」 「後藤が押されとる」 「ね」 だいぶ前から、逸と敬吾はドリンクのお代わりを頼みたくなっている。 「じゃあーー後藤は覚えてなかったけど、これで解決?」 「ああ、そうだなぁ」 「ですね」 一瞬だけぽかんとした後、柳田はまた顔を赤くして恐縮しきりに頭を下げた。 「あっ………お騒がせしちゃってすみませんでしたっ!」 「いやいや。こっちこそ顔覚えてたら済んでた話だし。なんかかえってごめんねー」 容疑者扱いをやめるように敬吾が席を立つと、柳田は腰を浮かせながらも「何かきちんとお礼をしたいんですが」と言う。 「いやほんとよくあることだから気にしなくていーよ」 後藤が応じると、柳田は明け透けに落ち込んだような顔をした。 「あっじゃあ、ここの代金持たせてくださいーー」 これには全員が止めに入った。 「いやいや学生さんにそんなことさせられないでしょ!」 後藤に言われると、柳田は驚きもせずに「いえ一応社会人なので」と応じる。 そして全員が、社会に出られる最も若い年齢とは、と考えだした。 なぜか恐る恐る、後藤が口火を切る。 「……えっと、何歳?」 「26です……」 「えええ年上ぇ!!?」 「えっ!!年下ですか!!」 若く見られることには慣れているようだが、後藤が年下だったのには驚いたらしい。 後藤と柳田は驚愕の表情で固まっていた。 徐々に解凍され始める後藤が、非礼を詫びる。 「うおー……すいません、なんか」 「いっ、いえいえ……慣れてるので」 衝撃冷めやらぬまま、なんとなく柳田にご馳走になることになり、その柳田は頭を下げ下げ帰っていった。 「……あれ、あの人忘れ物してる。俺ちょっと行ってきますね」 「ん?おう」 敬吾が応じる前に逸は席を立っていた。 それを不思議そうな顔で敬吾が見送り、後藤は一息ついてコーラを飲んでいる。 「しかしお前はなに、そんな人助けしてんの?」 後藤が不思議そうに片眉を下げた。 「人助け…………?……あーさっきのね。そういうわけじゃねえけどさー、ああいうヒョロいのとか女の子が絡まれてたら放っとくのも後味悪いだろ。俺割って入るだけで大体解散になるし」 「へー」 確かに、良からぬことをしているところにこの巨体がぬっと現れたら相当恐ろしいことだろう。 「なんだ。制裁してんのかと思った」 「ははっ!まあすることもあるよ?たまーに逃げないで絡んでくるやついるし、誰かさんに振られてこっちが苛ついてた時もあったし」 敬吾が咽ているところに逸が戻ってくる。 「ごほっ……、……間に合ったか?」 「えっ?ああ、はい」 妙ににこやかな笑顔でそう言うと、逸は後藤に向き直った。 「つーか、ほんとに俺たちなんで呼ばれたんですか?後藤さん一人でどうとでもできたでしょ」 「あのねえ考えてもみろよ、俺ひとりであんなリスみたいなの捕まえててみ?お巡りさん来ちゃうだろ!」 「あー」 「とりあえず敬吾がいれば犯罪臭は消えるかと思って」 対極の救援だったか。 「でも敬吾さんも、後藤さんといると若干インテリヤクザ感」 「なに?」 「あーほんとだ」 「はあ?」 「すみません」 「ごめんなさい」

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