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逃亡、降伏 3
道路に面した大きな窓の向こうは、カップルや家族連れでごった返している。
花火大会でもあったのか、浴衣姿も目立っていた。
ーー本当なら。
二人で行きましょう!とでも言いたかったのだろうな、あの男は。
ひとつため息をつき、敬吾はだらだらと食べ残していたハンバーガーを食べ切る。
店内も混み始めたし、一人で長居するのも憚られるようになってきた。
だが、電話で済むような用事でわざわざ出向いたはいいもののやはりその程度のことだから滞りなく終わってしまい、ーー教授に「お前暇過ぎないか?」とまで言われーーそれでもこうして時間を潰していたのだ。
それも限界か。まだ足が重いが。
浮かれきった喧騒が満ちてきた店内でまたため息をつき、ゆっくりゆっくり足を進めて20分後、アパートに着くまでには逸と顔を合わせる覚悟を決めてーートレイを持ち、敬吾が腰を上げる。
と。
「けーーごさんっ」
ーー目の前の暗いガラスの中、滑稽なほど色を失った顔の自分の後ろに、逸がいた……。
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