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第11話
薫の纏う匂いが濃くなる。
時折、鼻先を掠めるように馨 っていた花の匂い。
甘い蜜のようなそれを、俺はてっきり薫がつけるフレグランスの一種だと思っていた。
……だが、違ったのだとようやく気付いた。
これは、αである薫自身が発する香りなのだ。
馨(かぐわ)しい匂いに包み込まれ、くらりと頭が酩酊する。Ωにとって催淫効果をもたらすそれがフェロモンと呼ばれるものだということを俺が知るのは、すべてが終わった後となる。
「かぉるぅ…」
「そんな声で呼ぶなよ。……あー、ヤバい。ほんとヤバいわ、おまえ。その色気は反則だろ」
俺に対してだけ、ときどき乱暴になる口調。
「普段が普段だから、余計、クる。――だめだ」
五度目のダメ出し。
何がダメなのか。今度こそわからなかった。
薫は、なにかを耐えるように眉間にきつく皺を寄せ、それまで俺を果敢に攻めたてていた雄々しい肉棒を一気に引き抜く。
「アーーーーッ!」
喉の奥から自分のものとは思えない甲高い悲鳴が迸った。
薫のものが抜け出る際、張り出した部分に内壁を抉られ、それが鋭い快感となって俺をもはや何度目かもわからぬ絶頂へと導いた。
びくびくと痙攣する躰を手早くひっくり返した薫が、今度はバックから息つく間もなく挿入してくる。
「――ッ」
声はシーツに吸い込まれ、外に漏れることはなかったが、代わりに手首から伸びる鎖がぎしぎしと軋む音をたてた。
「――碧」
「…っ、ん…ッ、っ…、ぐ…!」
激しく揺さぶられ、顔面がシーツに擦れる。……しかし、それすら「快感」と皮膚は認識し、どこまでもどこまでも幾重にも折り重なり、躰の奥底に沈殿してゆく。
「碧…あおい…!」
「あっ、ああっ、はっ…ア…ッ!」
「あおい…、くッ…ハ…!」
後ろで、薫が小さく喘ぐ声が聞こえた。
その声に終わりの近さと、ぞくりとした欲情を覚える。
「か…ぉる…!」
「ッ…ク…」
それは、イクという呟きだったのか、あるいは単なる呼吸の乱れだったのか、わからなかった。
わかったのは……奥の奥に注ぎ込まれた精液の熱さ。
「ァ…アア…ア…ァ…」
自分の中が、命の種子を一滴も取りこぼさぬようきゅうぅと熱杭を絞 るのがわかった。
放たれた拍子に俺もまた精を放ち、シーツを汚す。
最後まで注ぎ込んだ後、役目を果たした男性器がずるりと後孔から抜け出していった。それを惜しむかのように内壁が追いすがる。
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