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序
その時のことを家政婦・久宝節子はいまでもはっきり覚えている。
幼少期から仕える己の主人、松前東輝が自ら抱いていた赤ん坊のこと、「母親は死んだ」とその一言で、どれだけの困難が降りかかろうと守ろうと誓った時のことを。
その赤ん坊の母親のことを何一つ口にしない東輝を相手に、ただ一つだけ、赤ん坊は節子にヒントを与えた。
薄く青く輝く瞳。
それは光の加減が見せた本性なのか、漆黒の双眸が時折見せる輝きだった。
色素の薄い髪と肌。
節子は、赤ん坊の持つ色彩に、この子の母親は異国の女性なのだと、そっと腕に抱きながら、東輝が再び出国していくのを見送った。
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