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~プロローグ~
僕が小学校に上がる直前、祖父に手を引かれ連れて行かれた場所で初めて彼を見た。
彼は籠の中、全裸で汚れていたが、真っ直ぐに前を向いて、その瞳は澄んでいた。
(欲しい)
僕は今まで余りモノに執着はなく、何かを欲しいと思った事はなかった。
その場所も祖父が『お前の使用人だから、お前が選びなさい』と言って強引に連れてこられたのだ。
僕自身は使用人なんて誰でもよかった。
その時までは。
その子をひと目見た時、僕は初めて欲しいと思った。
この子が欲しいと。
この場所へ連れてきてくれて、彼と会わせてくれた祖父に感謝したいくらいだった。
「……あの子がいい」
祖父と繋いでいる手を引っ張り、反対の手でその子を指差す。
「………え?」
祖父はその子を見ると、眉を顰めた。
「その子は止めておきなさい。お前にふさわしくない…向こうに何人か選んでいるから、その中から選べばいい」
「いらない。あの子がいい」
祖父の手を放すと、僕はその子が入っている籠に近付く。
その子の、黒い宝石みたいな瞳を近くで見てみたかったのだ。
「………こら」
それなのに祖父は僕の放した手を慌てて掴み直し、強く握り締めて引き止めた。
「ここの中にいる間は、わしの手を放さぬようにと言った事を忘れたか?」
「………ごめんなさい」
謝りつつもその場からガンとして動こうとしない僕を見て、祖父は溜め息をひとつ吐く。
「全く…あんな子のどこが気に入ったのやら……お前にはキチンとした子供を別室に用意していたというのに……しかし、お前が何かを欲しいと言ったのは初めてだな」
祖父は言葉とは裏腹に嬉しそうに笑うと、僕と繋いでいる手とは反対の左手に持っている杖を2回、床に打ち付けた。
すると、どこからともなく現れた黒服の男に何かを耳打ちした後、僕を見て笑った。
「またお前の父親に、わしはお前に甘いと怒られるな」
祖父に耳打ちされた黒服の男は僕の見ている前で彼が入っている籠の鍵を外すと、沢山いる同じように汚れている男の子達の中から彼を引き擦りだし首に紅い首輪を付けようとしている。
「…駄目!!止めて!!」
慌てて叫んだ僕の声に、黒服の男はチラッと僕に視線を向けた後、祖父の方を伺うように見て首輪をしまうと犬か猫を扱うように彼の細い首を掴んだまま檻の外に出てきた。
ドサッと僕の前に落とされたその子は俯いて、綺麗な宝石みたいな瞳を長く黒い前髪で隠してしまった。
そして、僕は汚れたその身体が小刻みに震えている事に気付く。
「………寒いの?」
僕の問いかけにも答えず顔も上げる事なく、全裸で震えている。
(確かに、この季節に全裸は寒いかも………)
男の子達が沢山いる籠の中からひとりだけ外に出されたら…特に。
僕は自分がきていたコートを脱いで彼の痩せた身体に被せようとした時、彼がボソッと呟いた。
「………服が汚れる」
彼が話してくれた事が嬉しくて、僕はコートを被せた後、マフラーも外して彼の首に巻く。
「そんな事、気にしなくていいよ」
安心させるように笑いかけて彼の手を握ろうと手を伸ばすと、彼は吃驚したように身体を硬くし、後ろに下がる。
「今日から僕の家で一緒に住むんだよ…友達になろう?」
手を伸ばし、彼の手を強く握るとそう言った。
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