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第4話
乱れた布団を直しても、蓮は目覚めない。
ぐっすりと寝入っている寝顔に安心して、さらさらの髪を撫でる。
久しぶりに見る蓮の寝顔。
-最近、蓮の様子がおかしい事には気付いていた。
時々、俺に何か聞きたそうにしている事も。
だが、俺はそれら全てを気付かぬ振りをした。
何か聞かれても答えられないから。
“あの事”は知られてはならない。
絶対に。
その時。
ポケットの中に入れてある携帯のバイブが鳴り始めた。
せっかくの幸せな気分を台無しにする音。
人の都合も、時間も関係なく電話をしてくるのはアイツしかいない。
俺は舌打ちをすると、寝ている蓮を起こさないように自分の部屋に戻り携帯を取り出す。
携帯の液晶画面を見ると、やはり見たくもないヤツの名前があった。
本当はこのまま、無視したい。
だが、出ないわけにはいかない。
「………はい」
『カーテン開けて、外を見て』
不機嫌丸出しの声で出た俺を気にする事なく、相手はいつもと同じように名乗らず明るい声でいきなり用件を伝えてきた。
嫌な予感がした俺は、急ぎ窓に近付き閉めていたカーテンを開く。
するとそこには、想像通り携帯を手にしたBクラスの勇士が笑顔でこちらを見て、手を振っている。
その勇士の後ろではいつものように、直人が影のように控えている。
『窓を開けて』
…このままカーテンを閉めてやりたい。
『早く開けてよ』
「…何の用だ。今日は会えないと連絡したはずだが」
『うん。だから、ボクの方から会いに来てあげたのさ』
「今日は都合が悪い。来ても無駄だから、帰れ」
-蓮の不安を取り除く為にも、今夜は蓮の側にいたい。
『用事って、ボクより大事な用事?』
平気な顔でしれっと言ってくる勇士に、間髪入れずに答えてやる。
『当たり前だ』
『…ふ~ん…そんな事、言っていいのかな~?』
勇士の声に楽しくて堪らないとでもいうような響きが混じっている。
『…何よりもボクの言う事を優先する…そう誓ったよね~?』
勇士の言葉に、唇を噛み締める。
『あの時、泣きながらボクの言う事には何でも従うって言ったよね?』
そう言われると、何も言えなくなる。
『忘れたのなら思い出させてあげようか。あの時の声は…声だけじゃないけど、録音も録画もしているから』
「………やめろ」
『ん~?何?聞こえな~い』
「………止めてくれ」
『だから、ね、約束を破ったら“お仕置き”しなきゃね…だから、ここへ来たんだよ。“お仕置き”をする為に。さあ、早く部屋へ入れて』
ゾッとした。
冗談じゃない!!
「………この部屋は駄目だ。俺がそっちの部屋に行く」
この部屋は俺の部屋であって、俺の部屋ではない。
蓮の部屋だ。
蓮の許可がなければ、誰であっても入れる事はできない。
『駄~目………と言いたいところだが、いいよ。遥香の方からボクのところに来て』
勇士は携帯を仕舞うと、踵を返して歩いて行く。
直人が、その後ろに付き従う。
勇士は1回も振り向かない。
まるで俺が勇士について行く事を疑っていないみたいに。
俺は深い溜め息をひとつ吐くと後ろを振り返りドアを見詰めた後、窓を開けた。
せめて今夜は蓮の側にずっといたかったけど。
(……すぐに帰って来るから………)
心の中で蓮に謝ると、後ろ髪を引かれながらも俺は勇士の後を追いかけていった。
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