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第1話
カランと響く乾いた音と浮かび上がっては消える琥珀色の泡。
そして、銀色に輝く華奢な指輪。
フルートグラスを傾けそれを手の平に乗せると、目の前にいる愛する人の薬指にゆっくりと通す。
「冷たっ……」
「ムードぶち壊すな、我慢しろ」
「分かってるよ」
「……亜季 、十年先も二十年先も俺と一緒にいて欲しい……だから、結婚してくれ」
「……政宗 」
「どうした?嫌……か?」
頷いたまま無言で首を横に振り、否定をする恋人と俺との間にまた沈黙が流れた。
「亜季?」
「ごめん、何でもなくて……なんか……」
「なんか?」
「幸せすぎて、俺……なんだか怖い」
怖いと言ったその一言を「何言ってるんだ」と受け流し、蓋をするようにそのまま口を塞ぐと深く口づけた。
怖いってなんだよ。
この先俺たちはずっと一緒だってさっき誓っただろ?
怖いものなんてない。
俺たちを隔てるものだって……
「愛してるよ……亜季」
「俺も……好き。政宗のことが、大好き」
─────何も、ない。
~恋の残り香~
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