1 / 8

第1話

カランと響く乾いた音と浮かび上がっては消える琥珀色の泡。 そして、銀色に輝く華奢な指輪。 フルートグラスを傾けそれを手の平に乗せると、目の前にいる愛する人の薬指にゆっくりと通す。 「冷たっ……」 「ムードぶち壊すな、我慢しろ」 「分かってるよ」 「……亜季(あき)、十年先も二十年先も俺と一緒にいて欲しい……だから、結婚してくれ」 「……政宗(まさむね)」 「どうした?嫌……か?」 頷いたまま無言で首を横に振り、否定をする恋人と俺との間にまた沈黙が流れた。 「亜季?」 「ごめん、何でもなくて……なんか……」 「なんか?」 「幸せすぎて、俺……なんだか怖い」 怖いと言ったその一言を「何言ってるんだ」と受け流し、蓋をするようにそのまま口を塞ぐと深く口づけた。 怖いってなんだよ。 この先俺たちはずっと一緒だってさっき誓っただろ? 怖いものなんてない。 俺たちを隔てるものだって…… 「愛してるよ……亜季」 「俺も……好き。政宗のことが、大好き」 ─────何も、ない。 ~恋の残り香~

ともだちにシェアしよう!