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最終話

「ごめん、起こしたか?」 「いや、大丈夫」 「頭は?」 「もう、痛くない。それでさ……」 「どうした?」 「俺、思い出した……」 「え……」 目覚めた亜季は、ゆっくりと、でもしっかりとした口調で思い出したことをぽつりぽつりと語りだした。 「政宗と初めて出会ったあの日、実家を逃げ出してきたんだ」 「逃げ出した?」 「俺の実家、名家で俺はそこの長男だった」 「名家?!」 確かに、亜季と初めて会った時に着てたスーツは仕立てがしっかりしてて、高いスーツを着ていた。 仕事柄、そういう目利きは備わっていたから分かってたけど、まさか御曹司とは…… 「じゃあ、跡取り息子だろ?なのに逃げ出すってどうしてだよ」 「俺は小さい時からずっと親の言う通りに生きてきたし、それが宿命だと思ってたから歯向かうこともなかった。だけどある日、結婚相手はもう決まっていて来月には式を挙げると急に言われて、俺は顔も知らない相手と結婚しなければならないのかと思ったら急に怖くなって逃げ出したんだ」 「庶民の俺には分からないけど、好きになった相手と結婚できないのは辛いよな」 「自分勝手だと思う。だけど、どうしてもそれだけは嫌だった。家柄的に仕方ないのは分かるけど、結婚は好きになった相手がいい。だから、全てを捨てる覚悟で、できるだけ遠くに逃げて辿り着いたのが……」 「俺のBARだったわけか……」 それから俺たちが友達になったとこまでは思い出したらしい。 ただ、肝心な恋人だった期間だけがすっぽりと抜けているみたいだった。 だけど、ここまで来たら話さないわけにはいかない……よな。 「巻き込んでごめん」 「いいよ、俺も亜季に黙ってた事あるし」 それから空白の期間を話し、亜季が何かを隠していたことにも気づかないフリをしていたことを打ち明けた。 今思うと、実家のことで悩んでいたんだな…… * 「俺たちが恋人同士だったって聞いて軽蔑したか?」 「……いや。そうなのかなって政宗の態度見てたら察しがついたし」 「え、俺そんな分かりやすい?」 「まぁ。寝てる俺に“愛してる”て言われた時はびっくりしたけど……でも、嬉しかった」 「聞いてたのか……」 「それに、あの引き出しに入って指輪……俺と政宗のものなんだろ?」 「それも知ってたのかよ」 「掃除してたらたまたま見つけて……さ」 「じゃあ、話は簡単だな」 「え?」 実家のことはあとから二人で考えよう。 記憶も戻らなくても別に構わない。 “過去より未来が大事” だから、俺はもう一度亜季を今まで以上に愛していこうと思う。 「亜季、もう一度プロポーズして……いいか?」 「政宗……」 「記憶が戻らなくても俺の気持ちは変わらないし、ずっと亜季が好きだ……だから、もう一度恋人からやり直して欲しい……そして、俺と一緒に生きて欲しい」 「あの……」 「法律上は結婚はできないけど、亜季が結婚したいと思う相手が俺で……選んでくれるのなら……実家へは説得するから……だから」 「政宗……そんなに必死なの久しぶりに見た」 「久しぶり……って」 「思い出してないよ、残念ながら。でも、今の気持ちは……政宗のことが……好き。だから、答えはYES」 「じゃあ……」 「うん、だから指輪……もう一度……付けて、俺も付けてあげるから」 指輪を付け合い、そのまま手を繋ぐとカランと乾いた音が響いた。 それは幸せの音……二人がもう一度、もう二度と離れないと誓うかのように静かな部屋に響き渡る。 「亜季……愛してるよ」 「俺も……政宗のことが好き」 そして、二度目の誓いのキスは甘くて懐かしい……そんな穏やかな香りがした──── END

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