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第7話

これはどう受け止めたらいいのだろうか。 記憶が戻ったわけではないけど、潜在意識として存在しているから懐かしいと思うのか。 手早くシャワーを浴びて、歯を磨きながらそんなことを考えていた。 そして、寝室に戻るとちゃんと亜季の隣が空いていて、起こさないようにそこに潜り込む。 なんだか変な気分だ。 好きな奴が隣にいるのに背を向け眠ることしかできない。 そんな悶々とした気分のままで寝れないでいると、背中にふと温もりを感じた。 「亜季……?」 呼び掛けに返事はない。 だけど、明らかに亜季は俺の背中に身体を預けている。 これも無意識なのかと、ゆっくり振り向き確認すると、規則正しい寝息が聞こえてきた。 やっぱりな…… 静かに身体を反転させ、向き合うようにすると間近に迫った寝顔。 「可愛いな……」 囁くように口にすると、恐る恐る亜季の背中に腕を回し更に距離を詰めた。 「……政宗」 そのタイミングで寝言のように名前を呼んだ亜季はまた寝息を立て始める。 このまま抱きしめたままでもいいんだよな。 そう勝手に結論付けると、回したままの腕に力を込めた。 * 「今日、ちょっと早めに仕事行くんだけど、大丈夫か?」 「別に大丈夫だよ」 「帰りはいつも通りだから」 「分かった」 あの日から俺たちは一緒のベッドで眠るようになった。 だけど、関係は相変わらずだし、亜季の記憶が戻る兆しもない。 そんな日が続いたある日、店を貸切ってパーティーを開くお得意様の為に、その準備でいつもより早めにうちを出ないとならなかった。 なのにその日に限って朝から亜季が頭が重いと言っていて後ろ髪を引かれる思いだったが、「大丈夫だから」と強引に送り出されてしまった。 オーナーに言ってちょっと早めに上がらせてもらおう。 そんなことを思っていた矢先、スマホが震えて確認すると亜季からで、急いでうちに引き返した。 「亜季っ!!大丈夫か!!」 玄関を開けて急いで部屋に向かうとベッドに横になる亜季の姿が。 「おい、亜季……」 「ご、ごめん……大丈夫だと思ったんだけど、痛くて……頭が……」 「気にしなくていいよ、喋らなくていいから」 「政宗……ここにいて」 「いるよ、どこにも行かない」 亜季の手を握りながらどうにもできない歯痒さと不安で、その日は祈るような気持ちでひたすら傍についていた。 それから何時間経ったのだろう……気づくと苦しそうだった表情が穏やかに規則正しい寝息を立てている姿に、俺は心底安堵して…… 「心配かけるなよ……」 そう静かに頭を撫でながら呟くと、「ごめん」と返事が返ってきた。

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