1 / 10
プロローグ
それは、三ヶ月前。
卒業式、当日。
生徒会室でのこと。
「……ごめんね」
整った顔に、銀縁の眼鏡を掛け。
腰の辺りまで長く伸びた黒髪を、一つに結んだ男子生徒。
夜船 南斗 は、静かにそう呟く。
それを聞いて、帳 幸 は……眉を、動かした。
けれどそれは……夜船が気付かない、ほんの少しの変化。
「幸君の気持ちは、嬉しい。だけど、ごめん」
夜船に少しでも近付こうと、肩まで髪を伸ばし。
必要なんかないのに、黒縁の大きな伊達眼鏡で、少女のような顔を隠して。
そんな帳にとって、悲し気な表情をしながら発せられた、夜船の呟きは……。
胸の中で育て続けた初恋を、跡形も無く打ち砕くのに……十分すぎるものだった。
ともだちにシェアしよう!