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第4.5話
目覚めると目の前に堤君の顔があった。
腕枕で一晩眠っていたらしい。狼狽えたのは一瞬で、俺は幸せを噛み締めた。
ゲイの自覚はあったものの、自分が「どっち」なのかよく分かっていなかった。
だが雄の顔をした堤君を見た瞬間自覚した。
「堤君に抱かれたい」んだと。
それにしてもスゴかった、と昨晩を思い出し赤面する。
「桔平さんエッチな顔してる」
いつ起きたのか、堤君がニヤニヤと俺を見ていた。おはようと甘く囁き、俺のボサボサの癖毛を愛おしげに撫でる。
一年前は、こんな関係になれるなんて思ってもみなかった。
黙っているのも卑怯な気がして「俺、ストーカーなんだ」と告白した。
「え!?」
堤君のぎょっとした顔に心が痛む。
そりゃそうだ。
仕事で出向いた先の病院で、俺は堤君の「ばあちゃん」を助けたことがある。
目の前を歩いていた女性がふらついたので、思わず駆け寄って支えたのだ。
『大丈夫ですかっ?』
『あなたこの間の……』
幸い軽い貧血のようで、ベンチに座らせたところで堤君が血相変えてやって来た。
『ばあちゃん!』
俺がペコ、と頭を下げると堤君はあっという顔をした。
『長屋さん、でしたよね?ありがとうございます!』
あの日俺は今度こそ恋に落ちた。
でもあれは偶然じゃない。
あの日俺は広大な病院で、堤君の姿を知らず探していた。幸運ではあるが、決して偶然ではないのだ。
実は堤君がバイトしているバーにも何度か行った。会えなかったけど。
「ごめん気持ち悪いよな……」
しかし堤君は安堵した様子で「何だそういう事か」とブツブツ呟いている。
「気持ち悪いなんてありえない。嬉しいです、そんな前から俺の事気にしてくれていたなんて」
堤君はうっとりする程甘い笑顔で、俺の鼻先にチュとキスをした。
堤君は甘い。ゲロ甘だ。
そのくせセックスは獣みたいにちょっと凶暴で激しい。これもギャップ萌ってやつか。
俺はくすぐったくなって、堤君の腕の中で身動ぎする。
「腕枕もう良いよ、痛くない?」
「全然。桔平さん華奢だから」
む。
身長はそんなに変わらないのに。
悔しいことに、細身だが伸びのある筋肉はしなやかで瑞々しい。初めて聞いた、堤君の声みたいだ。
思えばあの声を聞いた瞬間から、俺の恋は始まっていたのかも。
「大好きです桔平さん。ストーカーしたくなるくらい」
堤君は優しい。
裸の足を絡ませると堤君はクスリと笑って獣じみたキスをした。
終
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