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第1話 新シイ日々ノ始マリ

 4月某日、よく晴れた朝――犬神写楽(いぬがみシャラク)は今日から高校二年生になる。  1年から2年に上がるというだけなのであまり目新しさはないものの、クラス替えがあり担任も変わり授業数も増える。ごく普通の生徒ならば、新たに始まる新生活に今朝は胸を躍らせていることだろう。 しかし、写楽の場合は違っていた。 「入学式とか、クソ面倒くせぇな……」  何故なら彼は普通ではなく、いわゆる『ヤンキー』と呼ばれる種族だからである。 *  桜が舞い散る校門の前で、写楽は面倒な奴――彼の親友を自称する男――に話しかけられた。 「オッス、写楽!何朝から辛気臭ェ顔してんだァ?俺達ゃ今日から花の高校二年生、パイセンだぜ!もっと明るい顔しろよな~」 「生憎俺はいつもこんな顔だ。あと話しかけてくんな」 「1年に可愛いのいるといーなァ!いたらそっこー俺が粉かけっから横取りすんなよナ」 「テメェ、俺の声聞こえてるか?」  親友ヅラで馴れ馴れしく話しかけてくるこの男の名は朝比奈柊馬(あさひなとうま)という。去年まで同じクラスで、入学早々誰とも群れずに一匹狼だった写楽に『同じヤンキー同士仲良くしようぜ!』と声を掛けてきて、やたらと絡んでくるのだった。  別に写楽は自ら不良を名乗っているわけではない。ただ中学の頃から親や教師の言う通りに行動するのが厭で、親しくもない連中と馬鹿話をするのもごめんだった。  そんな態度だからか、または容姿がかなり端麗なせいか――高校に入学して以来上級生に目を付けられ、喧嘩を吹っ掛けられるたびに返り討ちにしていたらいつの間にか不良に認定されていた。  写楽は売られた喧嘩は買うものの、授業はサボらないし煙草も吸わないし酒も飲まない。それなのに不良だと言われるのは少々納得いかないが、周りからそう見えるのなら仕方ない、と渋々それを受け入れていた。  ちなみに朝比奈は、外見はいかついし授業は平気でサボるし態度も軽い。その上校内外のどこにでも争いの種を蒔いてくるという紛うことなき不良だが、何故か友達の数は多く一部の先輩や教師達にも大層好かれていた。 (解せぬ……いや、別に羨ましくもなんともねぇけど) 「おい写楽、俺達今年もおなクラだぜ!イエーイ!よろしくな!!」 「最悪かよ……」 「なんだよ、嬉しすぎて声も出ねェの?」 「出てる「あ、俺教室行く前に3年のセンパイんとこ挨拶してくっから、先行っといて!」 「ハア?言われなくても「じゃ、あとでな~!」  鼻歌まじりの軽快な足取りで三年の教室へと向かっていく朝比奈の後ろ姿を見ながら、写楽は(誰かアイツのこと殺してくんねぇかな……)と切実に願うのだった。 *  入学式にて新1年生を歓迎したあと、各教室ではロングホームルームが開かれたが、それも全て終了した。  新担任は去年から教わっていた国語担当教諭の榛名(はるな)だったので特に新鮮味もなく、写楽は自分の周囲が『去年何組だった?』だの『部活何入ってんの?』だのと手探りのような会話を交わしているのを苛ついた態度で聞いていた。 (どいつもこいつも浮かれやがって、別にまた去年と同じようなクソツマンネェ1年が過ぎるだけだろ。新しい担任も新しいクラスメイトも、何もかもくっだらねぇンだよ!) 「あの、犬神君」 「あァ!?」  今朝朝比奈に散々コケにされたのもあり――本人にそのつもりはないものの――イライラが頂点に達していた写楽は、不良でもない一般の生徒に普通に声を掛けられただけなのに、勢い余って喧嘩の時のようなドスの効いた声を出してしまった。

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