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第2話 君二一目惚レ

(うわ、やっべぇ……!)  写楽は朝比奈とは違い、自分がムカついたからという理由で一般の生徒に対して理不尽に喧嘩を売ったりはしない。それこそ本物の不良の所業だと思っているため、一応自分の中で線引きはしているのだ。 気を付けていたはずなのに、普通に声を掛けられただけで凄んでしまうなんて……。  突然の写楽の怒号に周囲はシインと静まり返っていた。こんな時に限って、明るくツッコんでくれそうな朝比奈の姿は無い。どこまでも腹の立つ男だ。 「ご、ごめんなさい!僕……」 「なんだよ、何の用だよ!?」  だからと言って写楽は『怒鳴ってゴメン、間違えた』などと素直に謝れる性分でもないため、この態度で最後まで会話をやり通すしかない。 「こ、今年も同じクラスだねって言おうとして……」 「は?」  写楽はそこで初めて、他称ヤンキーの自分に勇気を持って声を掛けてきた生徒の顔を見た。去年も同じクラスだったとのことだが、ぶっちゃけ初めて見る顔だった。  しかし。 背は160あるのか怪しいくらい低くて、前髪の長いヴァージンサラサラヘアー。ややもっさりしているため、シルエットは少しキノコのようにも見える。 肌は白くてキメが細かく、前髪に隠れて見えにくいが、零れ落ちそうに大きくてキラキラした瞳が印象的だった。 「……可愛い……」 「え?」 「あ?」  今、写楽の口から今まで言ったことも言われたことも無い単語が飛び出してきた。 (俺は今、こいつを見て何と言った……!?)  いや、わざわざ問い返さなくてもちゃんと覚えている。  間違いなく『可愛い』と言った。 「はああああァァ!?」 「あっあの!僕は河合(かわい)じゃなくて梅月(うめづき)って言います!……梅月(ゆう)です……犬神君は、僕のことなんか知らないと思うけど……」  写楽は無言でコクンと頷いた。妙な言葉を無意識に吐き出してしまった自分の口が恐ろしくて、下手に言葉を発せないのだ。 「でも、今年はせめて顔と名前だけでも憶えてもらいたくて……!」  梅月はパッと見た感じはかなり地味だ。背も声も小さくて、他人にあまり興味を示さない写楽でなくとも『あんな奴いたっけ?』と言われそうなくらい存在感が無い。  しかし、可愛い。一般的な可愛さなのかどうかは置いといて、写楽にとってはこのうえなく可愛く見える。心臓がとてつもなく早鐘を打っていて、梅月からちっとも目が離せない。 こんな感情は、今までどんな女子が相手でも一度も持ったことがなかった。 「なんで……」  どうして自分の目には、梅月が可愛く映るのだろう。自分と同じ男で、貧弱で、このうえなく地味だというのに……。  またも無意識に呟いた言葉だったが、梅月はどうして自分のことを覚えて欲しいのか、という質問だと捉えたらしい。 「あ、その……だから……」 「あ?」  写楽は単純に小声で聞き取りにくくて聞き返したのだが。 「犬神君のことが、好きだからです……!」  とんでもないことを教室のド真ん中で言わせてしまった。

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