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第3話 ソレヲ世間デハ恋ト呼ブ

 気付けば周りのクラスメイトは誰もいなくなっていた。どうやら最初に写楽が発したドスのきいた声に怯えて皆早々と帰ってしまったようだ。傍目には、梅月を写楽の犠牲に差し出した形で――。 (こいつ今、何て言った……?俺のことが好きだって言った?マジかよ!?)  一目見て可愛くて今すぐ抱き潰してやりたいと思ってしまった相手からタイミング良く告白されるなんて、なんて自分はツイているのだろうと写楽は思った。 あくまで表情はポーカーフェイスを保ったまま、心の中では何度もガッツポーズを繰り返す。 ――しかし。 「ご、ごめんね!男に好きだなんて言われてキモいよね。つい勢いで言っちゃったけど、本当は言うつもりなんかなくて……あの、ごめんなさい!」 「!?」 (ちょっと待て!俺はてめーのコト今すぐひん剥いてメチャクチャにしてやりたいって思ってんのに……あれ?つまりこれってどういう気持ちなんだ?)  写楽は童貞は中学でとうに捨てているし、今までそれなりに何人も彼女がいたのだが、全て暇潰しだったというか――受け身だったため、恋愛経験はあってないようなものだ。 なので、こんな時になんと言えばいいのか――気の利いた言葉が出てこない。 (言わなくていいことは勝手に吐き出すのに、空気読めよ俺の口ィ!!) 「ごめんなさい、さっきのは忘れて!ついでに僕のことも!」 「あっ!ちょ、待てテメェコラ!」  写楽がぼんやりしているのを悪い意味に捉えたらしい梅月は、ひどく後悔に満ち溢れた泣きそうな表情で、写楽の前から立ち去ろうとした。  しかし写楽はここで逃がしてなるものか、と(すんで)の所で梅月の腕を引っ掴む。 「あっ!」 「てめえ、言いたいことだけ言いやがって勝手に逃げてんじゃねェぞ……!」 「ひぃっ!」 (違う!俺はこんなことが言いたいんじゃなくて――!!)  梅月は写楽が切羽詰まっているのを自分に対してひどくキレていると勘違いし、言葉にならないくらいに怯えきっている。  ――その時だ。 「おいおい写楽ぅ、一般人(パンピー)相手に何マジ切れしちゃってんだァ?お前がそこまでキレるなんて、コイツそんなにやべーことやらかしたのかよ?」 「朝比奈……!」  ずっと教室にいないと思っていた朝比奈が、いつの間にか戻ってきていた。 「ご、ごめんなさいー!!失礼します!!」  朝比奈が現れてチャンス到来とばかりに、梅月は写楽の手を思い切り振り払って、物凄い勢いで教室から飛び出していった。 「あ、待て!!」 「えーとアイツは……誰だっけ?なんかよくわかんねぇけど、俺がとっ捕まえてボコボコにしてきてやろーか。お前パンピーは殴んねェだろ?」 「はあぁあ!?んなことしやがったらてめーを生きたまま殺してやるァ朝比奈ァァ!!」 「えっ、恐ぁ……」  朝比奈は、初めて目にする写楽の必死すぎる姿に素でドン引きした。

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