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第4話 友達ニ相談シテミル

 写楽は帰宅するなりベッドに俯せに倒れて、今日の出来事を何度も脳内で反芻していた。  というか――梅月の白く手柔らかそうな肌や少しもっさりした黒髪、そして自分を見上げたときに自然と上目遣いになる、零れそうにキラキラした瞳のことを思い出しては悶えていたのだった。  今まで異性にすら覚えたことのない気持ちをうっかりと同性に抱いてしまうなんて……いや、同性だからこそ抱いてしまったのか、その辺りはよく分からないが。 (ああ、どうして俺はアイツにあんな態度を取っちまったんだ。つーか梅月?去年から同じクラスだったとか、マジで全然印象にねぇんだけど)  『梅月』という名字なので、『犬神』写楽の後ろかその近くの席だったはずだ。 (そういえば俺、後ろの席の奴のこと全然覚えてねぇな。プリント回す時にもいちいち顔なんか見ねぇし……でも何度か授業中に寝てて当てられとき、後ろから(つつ)いて起こしてもらったような……まさかあれが梅月だったのか?)  ハッとして顔を上げた瞬間、コンコンと自室のドアがノックされて、返事をする前に開けられた。そこに居たのは新小学六年生になった妹の華乃子(かのこ)だった。 「お兄ちゃん、柊馬(トーマ)くんが遊びに来たよ」 「は?」  華乃子の後ろに大きな影が付いてきて、そこには数十分前に別れた友人――ではなくて、知人が立っていた。 「おいおいかのこちゃん、ノックした後に秒で開けンなよ!お兄ちゃんが中でイケナイことしてたらどーすんだァ?」 「むしろそれを期待してるの」 「(おっそ)ろしい妹だなオイ……」  華乃子が去り、朝比奈が勝手知ったる様子でクッションを引き寄せて座り込むと同時に、写楽は口を開いた。 「何の用だ、朝比奈」 「イヤーさっきの写楽の様子が気になってよォ、結局あいつは何なん?あの様子からして、なんかヤベエ弱みでも握られたのかァ?」 「……それを知ってどうするつもりだ」 「全力で面白がる」 「帰れ――!!」  マジギレする写楽に全く怯まず、冗談冗談とケラケラ笑う朝比奈にイライラが募るが、ほんの少しだけ――この梅月への溢れそうな想いの丈を誰かに聞いてほしいという思いの方が勝ってしまった。  なので『で、どうしたよ?』という親身っぽい言葉につい乗せられて、写楽は今日のことを話し始めた。 「あいつ……梅月って言うんだけど、去年から同じクラスで」 「へ?いたっけ、あんな奴」  やはり朝比奈も梅月のことを全く覚えていないらしい。二人とも出席番号は近いのだが。 「いたんだよ!俺もついさっき思い出したけど!」 「へえ~、で?」 「で、俺……あいつのことを一目見て、世界一可愛いって思ったんだ……」 「マジで?駅前の眼科予約してやろうか?」  二階の窓から叩き出してやるつもりで写楽が無言で立ち上がると、朝比奈は『ウソウソ!』と言って逃げた。 「世界一ねぇ……まあ正直お前のシュミは理解できねぇけどよォ、……あ!それで告白したらお前の顔が怖くて逃げられたってワケか!」 「(ちっげ)ぇよ!……いや、半分は合ってっけど……」 「へ?じゃあなんで逃げられたんだ?」  キョトンとする朝比奈に、写楽は深刻な顔で答えた。 「……好きだって言われた……」 「マジかよ、両想いじゃねーか!」 (コイツにだけは相談なんかしたくなかった……でも、俺には他にこんなことを相談できる奴がいないのも事実なんだ……!)  写楽は今までマトモな友人を一人でも作っておかなかったことをひどく後悔した。しかし後悔先に立たずなので仕方ない。 本当に本当(ホントー)――に嫌だが、写楽は思い切って朝比奈に相談した。 「朝比奈、恥を偲んでお前に尋ねる。……俺はいったい何て言えばよかったんだ!?」 「はァ?」  良い返事をくれると期待していたわけではないが、写楽は朝比奈があまりにも自分を小馬鹿にしたような――まるで珍獣でも見るような目で見つめてくるので、やはり人選を間違えたと思った。

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