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第1話

 一条草太(いちじょうそうた)がパソコンの画面越しに見る男は非常に流暢な英語を話していた。  画面の中の男は蘭・L・一国(あららぎ・リュカ・いつくに)博士。  シミ1つない、真っ白な白衣。それと、肌と髪も雪か何かを纏ったように白い。だが、白髪という訳ではなく、彼が今年の1月に発表した文献に記されたプロフィールを見ると、まだ24歳だという。 「俺と1つしか違わないのに……」  今年で23歳になる一条は溜息混じりで呟いた。  画面の中の蘭はとある学会で研究成果を語っていた……のだが、その様はあまりに滑らかで美しく、まるで歌でも歌っているように流れていく。 「しかも、これ、植物学のノーベル賞って言われている学会のだし」  一条は自身の昨年の卒業論文の口頭試問での失態を思い出すと、溜息の入った言葉を吐く。画面の下部のバーがもう右へ移動していて、蘭は 「Thank you very much」  と、これもまた流暢で自信のある英語で締めくくった。  シミ1つない、真っ白な白衣。それと、肌と髪も雪か何かを纏ったように白かったが、最後に画面へと向けられたその目は彼が持つ全ての黒を背負ったように黒く澄んでいた。

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