13 / 13

第13話

「学会、お疲れ様でした。博士」  スウェーデンから帰ってきた蘭を、一条が飛行場で迎える。飛行機からは蘭が降りてきた。 「ただいま、草太くん。いや、草太博士と呼んだ方が良い?」 「何ですか? 草太博士って……」  せめて一条博士でしょう、と溜息を吐くと、研究室へと向かう「博士」と呼び止めた。 「ん?」  白に近い明るめのグレーの小さな飛行場。植物園のように、様々な植物の持つ緑で囲まれていた島。  それに、かつて理性殺しと恐れられたバニラ・クピディタスのように青い色をした空。 「ずっと聞いて欲しかった事があったんですけど、聞いてもらえますか?」  それは10年越しの告白だった。 いつか伝えたいと思った蘭への思い。伝えたいと思っていたけれど、軽々しくは口にできない世界で最も優秀で、最も孤独な植物学者への思い。 「何? 嬉しい事だったら良いな」 髪も肌も白衣も真っ白い中、その目だけが黒く、優しいものを帯びて、一条に向けられる。 一条はかつて、蘭の特別な関係だっただろう芦田ではないし、芦田にもなれなかった。 だが、その芦田にも負けない存在になれたのではないか。一条はそう思うと、ゆっくりと口を開いた。 「俺、ずっと……」 『バニラ・クピディタスの副作用における 抑制剤の開発について                               蘭・L・一国                               一条 草太 』

ともだちにシェアしよう!