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その1 ふとっちょな僕と美しい吸血鬼

「お前を貰う事にした」  青白い肌をした長身の美青年が、僕-ジョンを見下ろしながら、ニヤリとした笑みで言い放った言葉に、僕は思わず、ぽかーんと口を開けた間抜けな表情で見上げた。  突然やってきた大量の吸血鬼たちの手によって、人狼族の里が落とされたのは、昨日の事だ。  近隣の中では、そこそこの大きさを持っていた里だったが、三倍以上の数の吸血鬼たち相手では、ろくな抵抗も出来なかった。  魔力によって床に抑え付けられた男の人狼たちは、既に血だらけであり、碌な抵抗も出来なくさせられていた。  吸血鬼の硬い革靴で頭部を踏まれているのは、銀褐色の髪をした族長の長男である、次期族長と言われている人狼-リッカルドだ。 「……き、さま……」  普段の力強い声は見る影もなく、酷くかすれてしまっている。 「構わんだろう? どうせ、お前はこれとは名ばかりの婚約なのだから」  容姿に見合った美しい声で、吸血鬼が、リッカルドの頭に更に体重をかけるようにして言った。  その言葉に、僕は恥ずかしくなって俯く。  僕は、北にある雪国の、昔から続く人狼一族の子供だ。  人狼には男性しか生まれない代わりに、出産の出来る身体を持つ個体が生まれてくる。  僕の一族は、その個体が生まれる一族であり、今までご先祖たちは、数々の名家との間に子供を作り、繁栄してきた。  族長候補であるリッカルドも、由緒ある僕の一族から妻を迎える事になったのだが、何故か、うちの一族で生まれた子供は、ここ十四年で僕だけであり、彼は他の誰かを選ぶことも出来ずに僕を婚約者とした。  リッカルドはかなり抵抗し、他の一族から妻を娶ろうとしていたが、リッカルドの一族が僕の一族との間の子を強く望んだ結果、仕方なく、である。 (でも、仕方ないよね。僕みたいなのじゃあ)  生まれ故郷からこの里に連れてこられて、最初リッカルドを見た時、僕はかっこいいなぁ、とすごく喜んだのだが、リッカルドは僕を見て嫌そうに顔を顰めこう言った。 「こんなデブがオレの婚約者だと? ふざけるな」  吐き捨てるように言われて、僕の初恋はその場でズタズタに切り裂かれてしまった。  僕は、良く言えばふくよかだが、言葉を飾らず言えば、太っていた。  背も小さい事から伸びなかったこともあり、丸々としている。  故郷の一族は可愛がってくれたのだが、この里にやって来て、僕は自身が醜い事を知った。  それからは、ずっと名前だけの婚約者として虐げられて、里の皆からも馬鹿にされて、僕は、ただ居るだけの存在と化していた。  僕が醜いからか、リッカルドは僕とは交尾をしようとはしなかったが、リッカルドの一族が僕を手放さなかった為に、僕はこの里を出る事さえ出来ずにいた。  そんな時、吸血鬼たちの集団が現れたのである。 (この人は、僕が相手にされていない事も分かってるんだ)  容姿にコンプレックスのある僕にとって、目の前の吸血鬼の美青年を真っすぐに見る事が出来なかった。  彼もまた、僕の事を馬鹿にするに決まっているのだから。 「おい、それを広場に連れていけ」  冷たい声で、吸血鬼の美青年が命令すると、リッカルドは両脇を控えていた別の吸血鬼たちに腕を掴まれて引きずられていった。  他の吸血鬼に命令をした彼は、彼らの中で地位のある存在なのだろう。  大きな手が僕の頭上に伸ばされて、僕は肉付きの良い身体を恐怖でぷるぷると震わせた。  リッカルドも、気に入らないと僕を殴ることがあったから、当然だと思った。  けれど、大きな手は僕の髪を優しく撫でるだけだった。  おそるおそる見上げると、青年はすごく優しい目で僕を見ていた。 「怯えなくて良い。今日から、お前は俺の妻になる。……ただ、それだけなのだから」  気づけば、僕は豪奢な彼のマントに包まれて、横抱きにされていた。 「ぇ」  間抜けな声を出した僕を許してほしい。  次の瞬間、理解できずに呆ける僕の唇を奪った彼は、外へ出て、威厳のある声で言う。 「この里は、我々の支配下となった! よって、吸血鬼の王である私、オスカーは戦利品として、この人狼を貰い受ける! そして、同胞たちよ、良く聞け! 私は、この者、ジョンを妻とする! 異論のある者は名乗り出るが良い!」  一瞬だけ静まり返った後、しかし、すぐにその場に居た吸血鬼たちは頭を垂れた。 「これで、お前は俺のものだな」  吸血鬼の王、オスカーは満足そうに微笑み、再び僕に口づける。  甘く漂う彼の香りにおおいに戸惑いながらも、僕には彼を拒否する事など出来はせず、口づけを受け入れた。  僕はこの日、吸血鬼の王の奥さんになった。

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