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その2 もふもふな僕と、ぽてぽてな吸血鬼

 吸血鬼の王であるオスカーによって、里が支配された翌朝、僕はすぐに彼の国に連れていかれた。  移動時にコンパクトに運べるだろうと言う気持ちから、僕は人化を解いて狼の姿になったのだが、オスカーは僕の狼の姿がかなり気に入ったらしく、城に連れてこられてからも、この姿で居る事が多い。  丸々としているのが、可愛いと言い、ずっと僕の身体をもふもふしているのだ。  とてつもない美形であり、どちらかというと冷たい印象のする顔立ちなのに、僕を撫でる時は目が蕩けているので、本心なのだろうとは分かるのだが、趣味が良いとは言えないのではないだろうか。  正直、最初は戸惑った。  今まで、故郷から出た以降の僕の扱いは、お世辞にも良いものではなかったからだ。  妻にするなんて言われても、きっと玩具なんだろうと思っていた。  適当に遊ばれたら捨てられるのだろうと。  吸血鬼は冷酷な性格で知られているから、余計にそう思ったのだけれど、蓋を開けてみれば、彼らは優しかった。  時折、確かに残虐性を垣間見せる事もあるのだが、少なくとも、先日まで居た里の人狼とは比べようもない位、僕に良くしてくれた。  他の吸血鬼からも,、僕のもふもふな狼姿は人気があるらしく、この姿で歩いているとお菓子をたくさんくれるし、人型の時も僕を見る目は優しい。 「吸血鬼は美しいものや愛らしいものを愛するんだ。お前は、可愛らしいから気に入られているんだよ。……少し妬けるな」  オスカーは、僕の身体を抱きしめながらベッドに入って、そう低い声で囁く様に言った。    あ、ちなみにオスカーを呼び捨てにしているのは、オスカーの希望です。    オスカーに抱きしめられていると、僕は安心してすぐに眠ってしまう。  故郷で家族と一緒にいる以上に、心が休まるんだ。  僕は、この国で色々な事を勉強している。  オスカーは王様だから、妻となる僕は王妃になる。  だから、学ばないといけない事がたくさんあるんだ。  人狼が王妃なんて良いのかって言ったら、問題ないんだって。  吸血鬼には、男女はいるんだけれど、女性側の生殖機能が殆ど無いらしく、純粋な吸血鬼が生まれるのは現在では皆無に等しいんだ。  だから、同胞を増やす方法は二つだけ。  一つは、他種族の血を啜り、吸血鬼の血を飲ませて契約をし、眷属として迎え入れる。  ただ、これは支配される側になるので、色々と制約が多くて、何と昼間は外を歩けないんだ。  太陽の光が弱点なんだって。  あと、最大の問題が、血を吸った主が死ぬと、眷属も死ぬ事だった。  つまり、一時的には増やせても、主の吸血鬼が何らかの事情で死亡してしまえば、何の意味も無くなってしまう。  吸血鬼にも病気はあるし、寿命もあるんだ。  もう一つは、他種族との間に子供を成す事。  血が混ざるから、吸血鬼の血は薄くなってしまうんだけれど、吸血鬼の血が入った混血児同士で婚姻して行けば、出来る限り吸血鬼の血を残していけるんじゃないかって、今はこちらが推奨されていて、そういった婚姻の数は多い。  だから、今、純粋な吸血鬼は数えるほどしか現存しないらしい。  そして、こういった婚姻を繰り返せば、当然、近親間での交配の問題が生まれてきてしまう。  吸血鬼たちも、近親間での婚姻は避けたいみたいで、オスカーは、現存する純粋な吸血鬼なんだけど、元々の血が濃いからこそ、僕みたいな子を迎えても問題はないんだって。 「だから、安心して良いんだ」  甘い声で頭を撫でられて、お腹をもふもふされると、僕はもうなすがままだった。  触れるようなキスをされたり、抱きしめられたりが最初は多かったけれど、今はもう少しエッチな事もされている。  僕が、リッカルドとはキスすらしたことが無いと知ると、オスカーは大喜びだった。  そして、とても怒っていた。 「私が初めてなのは嬉しいが、あの男がお前を蔑ろにしていたのは許しがたい」  オスカーは、僕がリッカルドの事を少しだけ好きだった事を知っていた。  何で知っているのかと聞いたら、僕とあの里で昔会った事があるんだって。  でも、オスカーみたいな人に会ったら忘れないと思う。  だって、里にやってきた時、僕は既に10歳だったから、そんな忘れるような昔じゃないから。 「……蝙蝠を介抱してくれたことがあるだろう?」  オスカーは、少し照れた様子で、ぼそりと言った。 「え、うん。僕が里にやって来て、多分半年くらいの時に、怪我をしていた子を助けたことはるけど」 「それが、俺だ」  オスカーの言葉に、僕はすっごく驚いてしまった。 「え!? えぇー!?」 「そんなに驚く事か?」 「え、だって、その、あの子は……っ」  僕が驚くのは無理もない。  だって、あの蝙蝠は、かなりのぽっちゃり体系だったからだ。  まるでぬいぐるみのようなフォルムで、ぽてぽてと音がしそうな肉感だったあの蝙蝠と、目の前の美青年が結びつかない。 「え、太ってたってこと?」  痩せたのかと聞くと、オスカーが苦い顔で首を左右に振った。 「いや、人型の俺は、今も昔も変わらない体型だった。ただ、な。蝙蝠の姿を取ると、私の姿はああなってしまうんだ」  話を聞くと、丸々とした姿になるのは、オスカーだけらしく、ずっと気にしていたらしい。  ただ、著しく傷ついたり、魔力を消費してしまうと、あの姿になってしまうそうだ。  僕と出会った時はかなり弱っていたみたい。 「あの頃、俺は腐っていたんだ。一部の親族は、俺を疎んでいたし、妻を娶れと言われても、俺は誰も好きになれなかったし、すべてが煩わしかった。やけになって近隣の多くの他種族と戦いになり、終に力尽きてお前の里にたどり着いたんだ」  確かにあの可愛い蝙蝠は、最初はすごく攻撃的だったのを覚えている。 「俺が威嚇しても、お前は俺を可愛いと言って献身的に尽くしてくれたろう? ただの不細工な蝙蝠に」 「そんな! だって可愛かったし」  不細工なんてとんでもない。  (コロコロしていて可愛いのに!) 「はは! ありがとう。……俺にとって、お前はすごく新鮮だった。それに、優しくて良い香りがして、寄り添うと毛がふかふかで暖かかった。共に過ごす内に、俺はお前が大好きになったんだ」  そう、仲良くなってからは、一緒に寝たり、こっそりと遊びにいったりしていた。  僕も友達が出来てとても嬉しかったんだ。  ただ……ある日、いつのもように会いに行ったら、蝙蝠は居なくなっていた。  僕はショックで、しばらくは泣いてばかりいたんだよね。 「なんでいなくなったの?」  恐る恐る僕が聞くと、オスカーが悲しそうな顔をした。 「仲間が迎えに来たんだ。最初は、お前に事情を話すつもりだったんだが、止めた方が良いと言われた。当時の俺は、まだ王ではなかった事もあって、一族の全権を持っていなかったし、吸血鬼と人狼は元々あまり仲は良くなかったからな。それに、あの時、俺はお前をそのまま連れていく気だったんだが、俺の立場でお前を守れるのかと言われて、俺はいったん引き下がるしかなかった。お前が、あのリッカルドと言う男を好きだったのは、共にに過ごして分かっていたのも、少し関係ある。お前たちが、もしかしたら、大人になるにつれて上手く行くのではないかと、そう思ったんだ」 「……リッカルドは、僕の事が最初から嫌いだったんだ。僕が太ってて冴えないから」 「お前は充分可愛い。あの男が見る目がないんだ!……お前を再び見たくて、こっそり見に行ったのは去年だったが、お前は変わらずあの男から虐げられていた。それを見て、俺は決めたんだ。お前を俺の妻にすると」  オスカーは、それから僅か一年の間に不穏な行動を取る親族をすべて一掃し、国を掌握。王位を継いだ。  同時、僕の事を国民全体に伝え、認めさせたらしい。 「愛の力だろう?」  自慢げにオスカーが言う。  勿論、それはきっとオスカーが元から持っている筈の優れた能力だった筈だ。  でも、そう言ってくれるのは、すごく嬉しかったから、僕はぎゅっとオスカーに抱き着いた。 「……ありがと」  ぐすっと僕は鼻を鳴らした。  あの蝙蝠の事はずっと友達だと思っていて、気になっていたんだ。  今も、本当なら、無理矢理誘拐されてるんだから、僕はオスカーを嫌ってもおかしくないのに、彼がすごく優しいからそんな気持ちにはならなかった。  里で過ごした四年間は、僕にとって、辛い事しかなかったと言うのもあるけれど……。  彼の腕枕で泣きながら眠りつつ、僕は思った。  本当のこの腕は温かいな、と。 「また、蝙蝠になってくれる?」 「ああ、いいぞ。お前の願いならなんでも叶えてやる」  その言葉に、僕は笑った。

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