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その3 痩せたい僕と今のままが良い吸血鬼
僕には今、悩みがある。
お后教育は順調なのだけれど、今度ある僕とオスカーの結婚式についての悩みだ。
僕たちは順調に愛を、育んでいると思うのだけれど、今僕らは小さな喧嘩(?)をしていた。
僕の体型は、ぽっちゃり系である。
先日、結婚式の衣装のデザインを見せられたのだが、デザインが割と体の線が出るタイプや、露出があるタイプが多かった。
控えめなものもあるにはあるのだが、非常に地味であり、王妃として式を挙げる際のドレスにはふさわしくないらしい。
なので、僕は痩せる事にしたのだ。
(だって、折角の式なんだから……!)
人生で一度の晴れ舞台である。
何よりカッコイイオスカーの隣に立つのだから、出来る限り綺麗にしたい。
なので、まずは食事療法として脂質や糖質の少ないものを選び、適度な運動から始めた。
そして、間食を無くした。
かなりオーソドックスな方法だったが、僕は一度太ってからは体格が殆ど変わっていなかった事もあり、そう言った方法でも十分に効果があるのではないかと思ったのだ。
勿論、それだけでは痩せられない場合もあるため、三か月間で効果が薄ければ、もっとしっかりとした内容に変えるつもりだった。
しかし、これに待ったをかけたのは、誰でもないオスカーである。
「絶対に反対だ! せっかく、そんなに魅力的なのに!」
オスカーは、僕の丸っこくてころころしていて、もっふもっふなのがお気に入りなのだと拳を握って力説した。
太ってるのが好みなのか聞いてみたが、別にそういう訳ではなかった。
かつて付き合いのあった相手は、皆美形ばかりだったらしい。
内心、その情報にむっとしたけれど、それはひとまず置いておいた。
「僕は綺麗になりたいんです!」
「今のままが可愛くて綺麗なんだ!」
僕らの話はずっと平行線であり、ここ2週間はずっと言い合いばかりだった。
侍従さんたちは、僕の味方だったので、頑張って説得しようとしてくれたのだけれど、オスカーが驚く事に駄々っ子みたいな状態になりつつあって、暴れだすようになったのである。
ただし、人型ではなく、丸々と太ったコウモリの姿でだ。
「痩せるなら、俺は人型の姿で駄々をこねる!」
小さい身体で、キーキーと跳ねながらオスカーが言うのを見て、侍従さんも僕も顔を見合わせてため息をついた。
さすがに吸血鬼の王、しかも見た目は冷徹な感じの美青年であるオスカーのそんな姿を大々的に見せるわけにもいかない。
オスカーは、最近、蝙蝠の姿を隠さなくなった。
今まで自分の蝙蝠の姿が嫌で人化を解かなかったオスカーだったけど、周囲が結構可愛いと褒めるから、僕の狼の姿と一緒に、最近では城の中で蝙蝠の姿で過ごすようになったのだ。
よく話を聞くと、オスカーにとっては、あの日出会った時の僕の姿が変わるのが嫌だったらしい。
「外見が変わっても、お前への愛は変わらないが、はじめて一緒に過ごした容姿をもう少し堪能したいのだ」
せめて、十年、いや五年は、と力説された。
初恋の思い出が、強烈過ぎると言われて、僕は嬉しいけれどすごく恥ずかしくなった。
オスカーの話に、外見に拘るなんてと最初は思ったけれど、僕も外見に拘って痩せようとしていたのだから、お互い様だ。
それに、僕も、今の程よくすらりとしたオスカーがかっこいいと思うから、例えば突然逞しい男になりたいと、ムキムキになると言われたら多分反対するから、同じことなんだと思う。
話し合いの結果、体型がぽっちゃりでも可愛く見えるように、新規のデザインのドレスを作る事になった。
こんなに言い合うなら、最初からそうしておけばよかった、と僕は思った。
そして、何故か。
一連の話の中で、折角だからと、狼の姿と蝙蝠の姿でも正装をする事になった。
……可愛いから、いいけれど。
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