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第68話

居場所を伝えプツリと切れた通話。 媚薬のせいか心情のせいか、体の震えが無意識に起きている。 誰かに今の姿を見られるのは恐怖でしかない。 その時、「椎名っ」と怒鳴るような声が聞こえてビクッと肩が跳ねる。 俺と目線が交わると、松本さんは怒りをあらわにして腕を掴んできた。 「ッ! ……松本さん……っ」 「こっちに来い、椎名」 「え、あっ……陸は……どうし、」 「お前がいない間に同僚と出会した。そいつに見てもらってんだよ」 かなり、怒っている。 人通りのない連絡通路に連れてこられると同時に壁に押し付けられる。 何かを察した松本さんは怖くて仕方ない。 「っ……見、ないで……ください……」 「誰に何をされた。お前に手を出したのはどこのどいつだ」 「…………もう、逃げてます。絶対」 燃えるように熱い体が、松本さんの手にゾクゾクと反応している。 あれほどの恐怖を体験したのに、それでも体は触れてほしいと疼き始めていた。 「クソッ……お前、なんでそんな顔が赤いんだ? まさか何か使われたんじゃないだろうな」 「っ! …………すい、ません…………っ」 「椎名が謝ってんじゃねえよ……クソ野郎」 逞しい腕に強く抱きしめられた。 お前を1人にするんじゃなかった、と後悔混じりの松本さんの言葉には涙が溢れてくる。 男が痴漢されたなどと誰かに言うことも躊躇するこのご時世で、訴えられない屈辱に唇を噛む。 「ふ、……はぁ、はっ……松、本さん……」 「…………場所が悪い。少し我慢しろ」 苦しい…… 体が熱くて、ピリピリと痺れる下腹部。 松本さんになでてほしくて、触れてほしくて呼吸が困難になってきた。 薄暗い駐車場にやって来たかと思えば、車の後部座席に強引に押し倒された。 目の前に松本さんの顔があり、ビクンと体が反応する。 気持ちの悪い体を浄化してほしい。 松本さんの手で。 「椎名、どこを触られたのか言え。挿れられてないよな? ここはどうされた」 「あんっ……や、触っちゃ……」 「弄られたのか? それとも吸いつかれたか」 「言わ、ないで……ください……っ、ん」 布地越しに両の乳首を指で弄られると強い電気が流れているような感覚に襲われる。 ビク、ビクと腰が動く度に羞恥で声が漏れてしまう。 「はっ、あ……あぁ、っ」 なんで、こんなに気持ちいいんだ……っ 普段の倍以上の感度に自分自身が一番信じられない。 「松本、さん……っんあぁ、もっ……と、」 「乳首弄ってるだけなのにエロ過ぎんだろ……やべえな」 媚薬の効果が全身に回ってきている。 優しくできる気がしない、と余裕のなさげな顔をする松本さんにドキッとさせられた。 途端に胸の先端に吸いつかれ、一際素直に感じてしまう。 「あんっ、ん……そこは……あぁ……っ!」 松本さんが、欲しい……っ こんな場所なのに、快感に漏れる声が抑えられない。 一段と強くなる性欲が暴走してしまいそうで、ひどい羞恥心に苛まれた。 甘く溶かすキス。 松本さんの指、熱の篭った肌。 この全てを独占したいと思ってしまう俺は、媚薬の効果に簡単に呑まれている。 「ん、ふぅ……は、ん……はっ、松本さん……」 「んな色っぽい声で俺を呼ぶなよ……お前の顔、陸には見せらんねえぞ」 「んっ……はぁ、苦し……いんです。助けて、ください……っ」 快感が怖い。 知らない男に触られた俺の体が穢れているようで、松本さんの手が触れてくる度に罪悪感を覚える。 「脱がすぞ」 「や、ぁっ……汚、い」 「汚くねえよ」 「やめ、やめてください……っ」 ズボンを脱がされかけたところでゾワっと恐怖に襲われ、うずくまるように車の背もたれに顔を埋めた。 手を止めた松本さんが見下ろしているのが分かるのに、顔を上げることができない。 「はっ……ふ、……んん」 「苦しいんだろ。出させてやるから力抜いとけ」 「い、や…………怖い、です……っ」 「…………椎名、大丈夫だ」 こんな醜態を晒しているだけで死にたい。 松本さんの手にこれでもかと腰を優しくなでられ、自虐的に唇を噛んだ。 「んふっ……はぁ、っ」 「悪い……優しくしようと思ったんだけど。我慢、できねえかも」 「っ! 手、離して」 「ダメだ。汚ねえ男の手に穢されたままじゃあ治まらないんだよ」 「あぅっ、や……」 容赦なく扱かれる陰茎は徐々に膨らみを増し、意識が飛びそうなほどの快感に襲われた。

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