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第2話
俺、水上 雷 の転校が決まったのは急だった。
大事な時期にごめんな…なんて父さんから謝られたけど、俺は特に頭がいいわけでもないから転校なんて大した事じゃない。
むしろ下の下のレベルの高校にいた。
毎日ダチと夜遅くまで遊んで、たまにケンカして、警察に追いかけられて…っていういつ勉強してんのって生活してたんだ。
両親は昔、俺なんか比じゃないくらいワルかったらしいから、人道に反する事さえしなきゃかなり好きにやらせてくれる。
中学に上がったと同時に、「いつ髪染める?」「いつピアスホール開ける?」「卒業式用に特攻服作ったぞ!」なんて言ってくる親はそうそう居ないんじゃないかな。
ヤンキーに寛大な親を持つと、息子ももれなくヤンキー街道まっしぐらだ。
でも俺は、グレてケンカがしたいわけじゃない。
勉強が嫌いで、それを押し付けてくる学校も嫌いで、足並み揃えて行動しなきゃいけない窮屈さに馴染めないだけだ。
勉強が好きな賢い奴らも居れば俺らみたいな勉強嫌いの半端者も居る。
俺は後者で全然いい。
気の合うダチが居て、好きな事して騒いで、たまに一人きりで野良猫と遊んで癒やされれば、それで。
さっきのは、この街での癒やしを求めて懐っこいにゃんこ探しをしてたら、ケンカを吹っかけられたんだ。
金髪おチビちゃん、なんてふざけて声掛けてきやがったから、カッときて振り向いて一撃だ。
「あーっ、腹立つ! 結局にゃんこ探し出来なかったし!」
コンビニの裏とか、コインパーキングの側溝とか、もっと巡りたい場所がたくさんあったのに。
なんか気が削がれた。
明日からこの街での新たな高校生活が始まる事だし、今日は大人しく帰ろう。
そう思って家路を歩いてたら、目の前に大量の荷物を抱えたお婆さんがヨロヨロしながら歩道橋の階段を上がっているのを見付けた。
辺りが暗くなり始めてるし、このままだと足場も見えにくくなる。
俺は迷わず駆け寄った。
「ばあちゃん! あっちまで行くの? 俺が荷物持ってやる」
「あらまぁ、ご親切に」
お婆さんは一瞬だけ、俺の髪の色と両耳についたピアスを見てハッとしてたけど、すぐにニコッと笑ってくれた。
「ふふ。 ありがとう、可愛い子ね」
「あー! ばあちゃん、俺に可愛いは禁句! カッコイイって言って!」
チビな俺よりもさらに小さなお婆さんが、俺でもちょっと重いと感じたこの大量の買い物袋を持ってヨタヨタしてたら、全然知らない赤の他人だけど、ほっとけるわけない。
居候する娘家族のためにこんなに買い込んだと聞けば尚更だ。
スーパーで嬉しそうにカートを押す姿まで想像しちゃいながら、歩道橋からさらに徒歩十五分のお婆さんの家までついて行った。
帰り際、仲良くなったお婆さんの好意を断るのが大変だった。
俺は気分良く鼻歌混じりに来た道を戻ってた。
……はず、…なんだけど。
「こ、ここどこだよ」
歩いてるうちに暗くなってしまって、来た道とは別の方へ進んじゃってたみたいだ。
にゃんこ探しだけのつもりだったからスマホも持って来てないし、…どうしよう。
すっかり仲良くなったさっきのお婆さんの家に戻って助けを求めようにも、その道すら不明だ。
「やばぁ…」
帰り道が分からない。
歩道橋にさえ辿り着ければ何とかなるのに、住宅街に迷い込んでしまった俺は同じところをぐるぐる歩いてる気がした。
今何時なんだろ。
そしてここはどこなんだ。
「さっきからウロついてるそこのお前」
立ち止まって天を仰いだ俺の背中に掛けられた、低い声。
ケンカなら買うぞ、と勇んで振り向くと、背の高い男が何気なく俺を見下ろしていた。
「同じとこ行ったり来たりして怪し過ぎんだけど。 何やってんだよ」
───おぉ! こいつ、俺と同類だ!
真面目そうな黒髪だけど、両耳に俺と同じだけピアスを付けてて、首元の金色のネックレスがヤンキー度をぐんと上げてる。
「いやぁ、道に迷っちゃって。 大通りまで案内してくんない?」
「は? なんで俺が」
「声掛けてきたのはそっちだろ!」
「方向音痴か」
「うるせぇ! いいから案内!」
ウロウロしてて怪しかった俺に仕方なしに声掛けてきたのかもしれないけど、同じヤンキー同士なんだからちょっとくらい手を差し伸べてくれよ。
パッと見が優しそうだっただけに、すぐに助けを求めちゃった俺も俺か。
「なんで道に迷ってそんなデカい態度できんの」
「うわ、お前ヤな奴だなー! 黙って案内しろよ!」
気が進まないみたいだけど、「ついてこい」と言ってくれた男に大人しくついて行く。
「だからなんでそんなデカい態度…」
「分かった分かった! ぶっちゃけ、ちょっと泣きそーだったんだよ。 俺引っ越してきたばっかだから」
「あーそうなのか。 心細くて? 泣きそーに?」
「ほんとヤな奴だな、お前…」
フッと笑うその男の顔は、ムカつくくらいイケてる。
大通りまで案内してくれたはいいが、道中ずっと「方向音痴」と言われ続けてめちゃくちゃ頭にきた。
ヤンキーにも色々なタイプがいるし、こいつは意地悪なチャラ系なんだなと無理やり自分を納得させておく。
でもま、無事に家に帰れたから全部許してやろう。
知らない街に来た初日で迷子になってしまって、半泣きだったのは本当なんだから。
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