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第3話

素行のよくない高校はみんな似たり寄ったりな制服なのか。 こないだまで着てた制服とほとんど変わらない、強いて言えばスラックスの色がほんのちょっと濃くなったくらいかな。 姿見鏡の前で自分の姿を確認する。 濃紺のスラックスに真新しい白のカッターシャツを着た俺は、金色のサラサラした髪と両耳に二つずつ付いた丸いピアスで、ひとまずナメられはしないと思う。 高三だから先輩っていうのが居ない代わりに、今日から通う学校の番長的な奴からは呼び出されるだろうけど、それは想定内だ。 「俺はチビだけどあんまり負けた事ないからなぁ」 前の学校でも、入学式の翌日から髪を金色に染めて登校した俺はすぐさま先輩から呼び出しを食らった。 見た目が派手なだけで何も迷惑は掛けてないってのに、チビのくせに生意気だとイライラされたんで、俺もイライラし返してやった。 大概の奴は俺のヒョロさと小ささを見て油断してるから、それを武器にちょっと屈んで脛を狙えばすぐに相手は転がって降伏する。 長い武器持たれたらさすがに勝ち目はないけど。 「さーて、行きますか」 金髪のまま登校する俺に、両親と「ブレないとこがイイ!」「そうだろ!カッコイイだろ!」なんてニコニコで会話をして家を出た。 学校には親と一回来てるから迷わず来れたし、職員室へもすぐに向かえてホッとする。 この時期の転校生というだけで身構えられるのに、俺の出で立ちを見た担任からは「問題起こすなよ」って早速釘をさされた。 「今まで問題起こした事なんてないし!」 俺の呟きに笑う担任と共に教室内へ入って見回すと、なんとクラスの大半が俺と同類だった。 「水上 雷です。 よろしくー」 「転校初日でパッ金かよ!」 「金髪歴六年だ! 気合入ってんだろ!」 「あはは…! 面白え、よろしくなー!」 空いていた席に向かってると軽口を叩かれたから、いつもの調子で返すとどうやらもう気に入ってくれたっぽい。 ヤンキーはこれだからいいんだよな、うん。 性根が腐ってない限り、とにかく人懐っこくて意外と人情味がある。 俺はすぐにクラスに打ち解けた。 まったく不安なんて無かったけど、覚悟してた呼び出しはとうとう放課後まで無かった。 「なーんだ、拍子抜け」 「何が拍子抜け?」 一緒に駅まで帰ろうと声を掛けてくれたのは、朝一番に軽口を叩いてきた翼だ。 こいつがまたピアスマニアかってくらい、両耳にびっしりと輪っか状のものやら円錐状のものやらを装着している。 下駄箱前で革靴を履いていた俺は、何も入らないような薄い鞄を脇に抱えた長身で茶髪の翼を見上げた。 「今日呼び出し食らう覚悟してたからさ。 ここって番長的な奴居ないの?」 「番長? あ〜まぁそれっぽいの居る事は居る」 「どんな奴?」 「俺より背が高くて顔が良くてケンカ強え奴。 ついでに女を取っ替え引っ替え」 「ふーん。 番長な上にチャラいのか。 名前は?」 「藤堂 迅(とうどう じん)」 翼が指折り数えていた番長の特徴にふむふむと頷いて、名前を聞いた瞬間、思わず吹き出してしまった。 「名前からして厳ついな! ウケる!」 「誰がウケるって?」 見るからに不機嫌そうな黒髪の男が、下駄箱の影からぬっと出て来た。 「お、迅。 お疲れー」 「おぅ翼、お疲れ。 早速転校生口説いてんの」 「こいつ超面白えんだもん」 この男が番長…いや、迅か。 翼と迅はダチみたいで、仲良さげに喋ってる。 俺はこの学校を牛耳ってるらしい迅に注目した。 確かに背も高いし、女にモテそうな今時の整った顔だ。 これでケンカも強いなんてヤンキーの憧れじゃん。 しかも、両耳に二つずつのピアスは俺と同じで親近感湧くな…って、ん? 待てよ、どっかで見た顔だな。 「あーーっ!!」 「なんだ、どうした?」 「うるせぇ…」 「お前は昨日の…!」 暗かったからよく見えなかったけど、昨日の今日だからさすがに顔は覚えてる。 昨日散々俺を馬鹿にしながら大通りまで連れて行ってくれた、あの意地悪ヤンキーだ!

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