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第1話
こんな夢を見た。
おれな、じつはなと、やけに勿体ぶってきみが言ったから僕は終ぞ別れ話でも切り出されるかと思って身を硬くした。
きみはゆっくり瞬きして何かひどく重大なことを言うかのように言った。
「桃をむくの結構上手なんだ」
採れたての桃はシャクシャク硬くて美味いぞ。きみはそう言って産地直送で先程届いたという桃にフルーツナイフを入れていく。くるくると剥かれた皮に身が全然ついてなかったので、ああ本当にきみは桃を剥くのが上手いんだなあと思った。
きみが切り分けた桃の一片を、そっと指でつまんで僕に差し出す。
桃の果汁がきみの指から掌に伝ってぽたりとテーブルに落ちた。
僕は桃を摘んだきみの手首を掴むとそっと、その果肉を口に含んだ。
たしかにシャクシャクとしてうまい。
その甘い果汁を全て口に収めてしまおうと掴んだ手首はそのままに、きみの指先から掌までぺろぺろ舐めていると、きみが息をついた。
見上げるとその頰は桃色に染まっていてもうすぐ花が咲くんだと思った。
花が咲けばきみはぼくのものだ。
直感的にそう思った。
「もう一個ちょうだい、」
ぼくの言葉にきみはゆっくりとうなずいた。
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