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第3話

こんな夢を見た。 今日からあなたは風船です。と駅のスピーカーから無機質な声がして、何回も発車音がリピートされた。 そしてその音がリピートされるたびに僕の体はどんどん膨らんで、パンパンになりやがてふわりと宙に浮いた。 「助けて〜誰か〜」 僕は屋根に引っかかってなんとかそこに留まっていたが、強い風が吹いた日にゃ、あのどこまでもどこまでも深い果てしない宇宙へと続く空に落ちていってしまうのだ。 僕は泣きそうになりながら必死に助けを求めた。しかし、そもそも駅は無人で駅員すら見えない。 「おい」 後ろから甲高い声がした。 屋根を掴みながら体の方向をなんとか変えて見ると、そこには子供のきみがいた。 ぼくは小さなきみに必死に助けを求めた。 きみは利発そうな目を輝かせて待ってて、と言うと駆けていきどこからか長いロープを持ってきた。 投げられたロープを掴み手首にぐるぐるに巻きつける。きみが歩き出した。 ぼくは何度も風に飛ばされそうになりながら、きみの家に連れて行かれた。 きみの家は高層マンションで、だだっ広いそこにひとりで住んでいるのだという。 「なぁ、ずっとここにいろよ。お前が居るとあったかいんだ。」 瞳をきらきらさせてきみが言う。 僕はそんな途方も無い時間この子といっしょに居れるのかなとおもった。 そもそも風船には寿命がある。天高く登りいずれ破裂するか、しゅわしゅわ空気が抜けきって萎んでしまうか。風船である体に慣れてきた僕は、そんなことを考えた。 でもきみの目があまりに綺麗だから。 「うん、わかった、きっといるよ」 そう言ったのだ。 きみは花が咲いたように笑ってありがとう、ありがとう!と喜んだ。 それから何年もたった。 きみは僕をとても大切にしてくれたがそれでも少しずつ空気は抜けていく。 そして遂に100年経った時、ぼくの空気は抜けきってしまった。 布団の上でにぺちゃんこになったぼくを抱きしめながらきみは言った。 「俺が大人になるまでもう100年かかる。もう100年待ってて。俺はけしてお前を嘘つきにさせないからな」 そのままぼくは100年、ただのモノとなっていた。眼に映る景色は意味をなさずぺちゃんこの身体は動かすことも出来ない。 何年かたった頃とうとう目が見えなくなった。それから更に何分何秒という時間が過ぎていった。 ある日、ぼくは暖かな接吻を受けた。口腔から空気が入って、ぺちゃんこの僕はみるみる膨らんでいった。 ある程度膨らむと、目が見えるようになった。目の前には美しい青年がほほえんでこちらを覗き込むようにしゃがんでいる。 ああ、100年経ったのかと思った。 僕はゆっくり手を伸ばすと青年を抱きしめた。 暖かく、甘い香りがした。 「今日からあなたは人間です」 部屋の隅にあるラジオから声が聞こえた。

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