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「転入生…?」 このクラスに今日、転入生が入ってくるらしいと、聞いたのは朝練が終わり教室に向かう廊下の途中だった。 「そぅ。今日の朝、職員室で担任が転入生と喋ってるところをたまたま見かけてさぁ」 そう言うのは、同じバスケ部で小学校以来の幼なじみの平川悠貴(ひらかわゆうき)だった。 「へぇ、どんなやつ?」 俺より10cm高いとこにある頭を見上げるように聞き返した。 歩く途中、すれ違うクラスメイトや知り合いに「おはよ」と挨拶を交わす。 「いや、後ろ姿しか見てねぇから顔とかはよくわかんねぇけど…黒髪の長身で、多分俺よりちょっと低いぐらいかなぁ…?」 「ふぅん…」 あまり興味もないので、適当に相槌を打つ。 これが転入生が美少女とかだったら、俺のテンションもMAXだが残念ながらここは完全男子校なのでそんなことは有り得るはずもない。 男がクラスに1人増えようが2人増えようが大した変わりはない。 「でもなぁ、なんっかどっかで見た事あるような気がするんだよなぁ…」 悠貴がそう言って首を傾げる。 「身長高い奴なら、他校のバスケ部とか?」 「うーん…まぁどうでもいいか…」 どうも悠貴もさほど転入生には興味ないらしく潔く思い出すことを放棄した。 教室に入ると、噂が回ってないのか、それとも俺たち同様転入生に興味が無いのか、いつも通りの風景が広がっていた。 俺は、クラスにいる奴らにも各々挨拶を交わし自分の席に着く。 男子校と言うだけあって、かなりムサ苦しい教室だ。挨拶するなり首根っこを捕まれ頭をわしゃわしゃこねくり回すやつや、急に肩を組んで来るやつもいる。 しかも悲しいかな、この学校はそこそこの進学校であるにもかかわらず部活動も盛んでクラスにいるやつの大抵が俺よりデカい。 俺も、身長は174cmで世間一般的にはそんなに小さい方ではないけど、この学校では華奢な方になってしまう。 「たく…朝からテンション高いな」 そう愚痴を零すと、「悪い悪い」と頭を撫でくり回すのでタチが悪い。 ようやく予鈴がなって周りのやつは席に戻り一段落だ。 ぐちゃぐちゃになった髪を直しつつ、ふぅとため息をひとつ着いた。 前の席の悠貴が哀れみの目でこちらを振り返る。 いいよな、悠貴はでかいから…と悪くもない悠貴を毒づく。 部活の後、遅くまでバイトをやっている俺は朝のこの時間はかなり眠い。 おじいちゃん先生の担任の声もいい感じに子守唄になり俺は転入生が来ることなんてすっかり忘れこくりこくりと船を漕ぎ出した。 幸いなことにこの席は、前がでかい悠貴なので小さい俺は隠れて寝ていてもバレにくい。 それをいい事に頬杖を着いてそのまま海へ漕ぎ出した。

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