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今、絞首台への階段を上っているのは、かつては友と呼んだ男だ―― 私と同じ金の髪、緑の瞳を持つ者で溢れかえっている広場で、黒髪に赤目の囚人服の男は異様に目立っていた。 そういえば、初めて会った時も目立つ色だと思ったな――そう過去を回想している内に友は階段を上り切ってしまっていた。 「最後に何か言葉は?」 囚人服の傍らに立つ、やはり金髪の男がお決まりの質問をする。 それを聞いて一瞬迷うように友の瞳が広場を見回した。 「……ぁ」 思わず声が漏れてしまう。 友と目が合ったのだ。 「……特にないな」 すぐに視線は外され、友は真っ直ぐに前を見つめながら吐き捨てた。 さっさとしてくれとでも言いたげな態度である。 それに呆れた様な表情を残して金髪の男は去って行った。 後はレバーを引いて、友を落とすだけとなる。 この国はその大きさ故に近隣諸国との戦争が絶えないでいた。 そのために用意された騎士団は日夜戦場を駆け回り、王に仕える誇り高き存在として、国を守る存在として、国民の羨望の眼差しを集めていた。 この公開処刑で注目を集めている”友”も、それを見ている”私”も、その誇り高き騎士団の一員であった。 だが――友は国を裏切った。 長年戦争を繰り返していた別の大国と通じ、先の戦争でこの国を窮地に追いやったのである。 友は優れた騎士であった。 若くして私が隊長を務める部隊の副隊長の地位に就き、二人で何度も部隊を勝利に導いてきた。 その友が国を裏切っていたとは最初は到底信じることなど出来なかった。 しかし、我が国が辛くも勝利を収めた後、友と敵国との繋がりを示す証拠が幾つも発見され、最後には友自身もそれを認めたのだ。 ほとんど泣き叫びながら「本当のことを言え。お前がそんなことをするはずがない」と訴える私にも、友ははっきりと宣言した。 「この国は仕舞いだと見切りを付けたのだが、目論見が外れたな」 友はいっそ愉快そうに笑っていた。 顔を隠している執行人の手がレバーにかかる。 想像以上にあっさりとそれは引かれ、首に縄をかけられた友の足元の床が外れた。 縄が友をぶら下げて嫌な音を立てる。 距離からして聞こえないはずなのに、それが聞こえてしまう。 友の顔は見えなかった。 見たくなかった。 目を閉ざした瞬間、今度は耳にはっきりと届く大きな音が聞こえた。 何かが千切れる音と、大きな物が叩きつけられる音だ。 絞首台を見る。 居るはずの友がぶら下がっていなかった。 彼は下にいた。 縄が切れて、落下したのだ。 「これは……どうしたことか」 この国では処刑を行って尚生き残った者は、神の思し召しとして許されるのだ。

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