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「首への衝撃のためでしょうか、喉を傷めてしまったようで、以前の様に喋ることはできません」 「こちらと意思疎通を図ろうともしない。頭でも打ったのか、単に生き延びたことを恥じているのか」 「正直、扱いに困っておりました。グランツ隊長であれば安心してお任せできます」 生き恥を晒した我が友――ダンケルハイトを引き取ったのはかつての直属の上司である私であった。 あの後、生きていることを確認されたダンケルハイトは周囲の混乱のために三日三晩牢屋に放り込まれ、最終的に神の審判に従おうという結論に落ち着くまでほとんど放置された。 命に別状はないが、足の捻挫と喉の損傷が酷く、放置していたことも相まって更に一週間高熱にうなされていた。 通常であれば縄が切れても、落下の衝撃の時点で首の骨が折れて死んでいることが多いらしいが、さすがに我が隊の副隊長を務めた男である、一命を取りとめたのは日頃の鍛錬の賜物だろう。 「入るぞ」 四度ノックして、扉を開ける。 「やぁ、グランツ隊長殿。今丁度物語が良い所だったのだが、相変わらず間の悪いことで……」 そう嫌味を言いながらも、読みかけの本に栞を挟み、きちんと閉じてから身体ごと向き直ってくれる。 少し前までは、私が友の部屋へ入室する時はそのようなやりとりをよくしていた。 「……」 今は何の返事も動きもない。 簡素なベッドに死んだように横たわるのは我が友ダンケルハイトであった。 「……起きていたのか」 「あ゛……ぅ」 覗き込めば、深紅の瞳がこちらに向けられる。 何事かを口にしたのだが、まるで締め上げられているかのように濁った声が漏れるだけだ。 牢屋暮らしと生死をさ迷ったのが堪えたのか、髪は潤いを無くし、頬はこけている。 「遅くなってすまなかったな……まずは身体を拭こう」 戦争自体は勝利に終わったが、事後処理のために部隊長である私は何日も方々を駆けずり回る羽目になった。 ましてや、己の部隊から裏切り者が出たのだ。 いっそ戦場に出向いた時よりも疲労しているのではないのかと感じてしまう。 その身体を引きずる様にして真っ先に訪れたのが、ダンケルハイトを隔離している部屋であった。 留守の間に使用人に世話を頼んではいたのだが、案の定必要最低限しかされていないらしい。 身体からはほのかに饐えたような匂いがする。 それを見越して湯を張った桶と布巾を持ってきて正解だった。 「脱がせるぞ」 「……」 暴れるかもしれないと構えたが、ダンケルハイトは大人しく従っていた。 頭を打って物事の区別がつかなくなっているかもしれないと医者には言われていたが、介助を必要としつつも日常生活は問題なく送っており、混乱している様子もない。 だから私は”かつての友”として変わらずにダンケルハイトと接すると決めていた。

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