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7-1 彼女に会うため女子部へと

 厳正なる投票の結果、2-Bの学祭の出し物はお化け屋敷に決まった。  特別エスコ-トつき。ここが客を呼び込むポイント。一応な。  候補に挙げられたのはどれも適当な模擬店で、考え抜かれたすばらしい案なんてものはなし。  今日のロングホームルームは議長からしてやる気なさしで、ムダ話ばかりだったからね。  だらけた流れのまま。飲食店はいろいろ面倒、じゃあ、お化け屋敷でいいじゃん……みたいな。  何はともあれ。多数が賛成した意見だから決まったわけだし、俺はそもそも何でもいいし。それよりも、この後のことが気がかりだった。 「(かい)。言っとくことがある」  SHR直後、いち早く隣に声をかけた。  いくつかある俺の気がかり要因の中で。お互いについて何の基本情報もないまま、涼弥と凱が顔を合わせることがまず不安。  さっきトイレ前で俺が挙動不審になった原因の涼弥に、凱がよけいなことを聞くかもしれない言うかもしれない。  授業をサボって俺と一緒にいた凱に、涼弥が勘違いな敵意と警戒を向けるかもしれない。  だから、事前に注意事項を伝えておきたくて。 「これから女子部に一緒に行くA組の杉原涼弥。さっきトイレ行った時前から来た、背高くて髪ハーフアップに結わえた男。パッと見、素行の悪そうな」  とりあえず、凱が涼弥を認識してるか確認。 「お前と見つめ合ってたヤツ?」  う……確かに……そう、ですね。はい。 「まぁ……そう。見た目と違っていいヤツで、俺の幼馴染みなんだ。あいつに、俺のこと話さないでくれ。今日の昼のこととか、お前に言ったこと」  凱はほんのちょっと考える顔になったあと、笑みを浮かべた。 「オッケー。サボりの理由聞かれたら、鷲尾先生の時と同じにしとくね」 「助かるよ」  質問より先に了承してくれる凱に感謝。 「あと、涼弥がお前に不快なこと言ったりしたりするかもしれない。ごめん」  さっきより間が空いた。 「謝んなよ。そーゆーのあっても、気にしねぇからさ」 「頼む。明日、説明するから」 「うん」 「ありがとな。じゃ、俺先行くわ」 「將梧(そうご)!」  カバンを手に背を向けた俺を、凱が呼び止めた。  振り向くと、真剣な瞳が俺を射る。 「いっこだけ今答えて。イエス・ノーで」 「何?」 「涼弥って男、お前にとって大切なヤツ?」  迷ったのは一瞬。 「イエス」  俺と凱の視線が絡んだのも一瞬。 「わかった」  そう言った凱がバイバイと手を振り、俺は頷いて(きびす)を返した。  涼弥は俺にとって大切な存在だ。その真実を肯定出来るくらい、凱を信用してる自分にちょっと驚く。  でも、楽にもなった。  凱は頭が切れる。  数時間一緒に過ごしただけでそれがわかるのは、かなりのもんだよな。  だから、安心したんだ。  俺が大切だって認めた涼弥が何を言ったとしても、凱はきっとうまく対応してくれるはず。自分が涼弥と敵対しないように。涼弥が俺を誤解しないように。  そのための質問だった。そう信じていい……よね?  一番の気がかりへの不安を消したおかげで、だいぶ足取りが軽くなった。  下校する生徒たちの先陣を切るように昇降口を出る。  女子部までは急いで3分。  俺の用事は彼女、樋川(ひかわ)深音(みお)に会うことだ。  深音は中学からの紗羅の友達で腐女子。  その二人に深音の幼馴染みの夕希(ゆうき)って男子と俺を加えた4人は、BL大好き腐った仲間たち。高等部に上がってからは、月一で情報交換座談会をしたり連れ立ってコミケに行ったりしてる仲。  そんな感じで中1から色恋無縁でつるんでた深音とつき合うことになったのは、向こうからの申し出により。  ただし。  好きだの愛してるだのはなく、込み入った事情があって。  簡単にいうと、深音はホモセクシュアル……女だからレズってやつで、ごく親しい友人以外にはそれを隠してる。  そして、中2からずっと片思いしてる先輩がいて。高1の終わりに意を決して告ったら、彼女に言われたそうだ。 『私を好きな気持ちは、女子校にありがちな幻想かもしれない。男を知らないまま女が好きって思い込むんじゃなく、男を知った上で女のほうがいいって確信出来たらもう一度告白して。待ってるから』  で、深音は考えたわけだ。  誰でもいいなら、おつき合いしてくれる男子を見つけるのは難しくないはず。  だけど、好きでつき合うんじゃない。ただ男との経験が必要なだけ。  なのに、もし夢中になられて別れるのが難儀になったら面倒だ。  かといって、交際する理由を理解して、ただの実験台として後腐れなくアレコレするような都合のいい男なんていない……あ! いる! ひとりピッタリなのが!  それが俺。  何故か、俺。  いや。どうしてかはわかってる。  第一に、俺は深音に恋愛感情を持ってないし、この先も持たない。  だから、偽装交際に適任で、安心安全。  第二に、俺は紗羅の弟で、長く友人関係を築いてて気心が知れてる。  だから、本音でつき合えるし欲求も拒否も遠慮なく出来るから、よけいな気遣いが不要。  第三に、恋愛感情はないけど、親愛感情はお互いにある。  だから、偽りの恋人同士といってもやることはやる前提の関係に、スタートラインでの嫌悪感はない。  これらが、深音が俺を選んだ理由。  その思考は理解できるとはいえ。深音に恋人役をオファーされた時、最初は普通に冗談かと思ったよ。 『私と偽装でつき合ってくれない? 期間は未定だけど、將梧に好きなコが出来たら即解消でいいから。ひと通りのこと経験したいの。ディープキスとかセックスとか』  内容がこれだもん! 深音がレズなの知ってたしさ。  でも。でもですよ?  大好きな先輩に言われた内容を聞かされ、いろいろ考えた末に出した結論だと説明されるうちにコイツ本気だ!ってわかった時真っ先に思ったのは……。  もし俺が断って、変な男と関わったらヤバイんじゃないの!?  という友情からの親心。心配。不安。  せっかくだからやらせてもらおうとか、ラッキーとか(よこしま)な気持ちはなくて。俺、オクテの童貞だったから、正直怯んだし。  案の定。將梧が無理なら、友達で信用出来る人を紹介してほしいって続けた深音。 『わかった。つき合うよ』  俺は恋人役になることを承諾した。  それ以外にどうするのが最善だったか。あるなら教えてくれ。  今回はもう遅いけど……今後のために。

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