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6-3 嫌な予感がヒタヒタと

 やめて無理!  いくら玲史とでも、自分をネタにエロトークなんか出来ない。  自慢じゃないけど。ノーマルエロもだけど。俺はリアルなホモエロ方面に、激しくオクテだ。  腐男子が皆3次元での男同士のセックスをオープンに語れると思うなよ? 実際に男とやってるヤツなんて、たぶんレアだぞ?  エグエグなハード系BL好き腐女子がガチのゲイビは見ないっていうのと似たようなもん。たぶんな。  凱とセックスの話したのは……アレだ。  最初から素の自分を見抜かれて、自分でも晒した解放感と安心感。プラス、いつの間にか構築された信頼関係の成せる業ってやつ。 「どっちもないから想像するな」 「えーじゃあ、自分ではどっちだと思うの?」 「考えないよ。真性ゲイのお前だって、女とのセックスはイメージしないだろ」 「そうだけどさ。最近ヒマなんだもん。そそられる男がいないんだよねー」 「見た目より内面を重視してみたらどうだ? 性的対象としてだけじゃなく人を見ると、意外なヤツに魅かれるかもしれないぞ」  話を自分から逸らすべく、ありきたりのアドバイスで逃げることにした。  紫道(しのみち)も巻き込んでおこう。 「なぁ、紫道。お前はどう? 人間中身が重要だよな?」 「そうだな。生理的に受けつけない顔より、許容出来ない性格のほうが俺は無理だ」  マジメに答えてくれる紫道。いいヤツだな。 「あ! そうだ」  玲史がポンと手を合わせる。 「中身といえばさ。D組の委員長、僕と同じ系統だったよ」  個人的に話したことはないけど、選択授業や合同体育で見知ってる男だ。 「加賀谷(かがや)だよな。系統って?」 「ゲイでタチで、サド」  紫道と顔を見合わせる。  きっと、脳内コメントはほぼ一緒。 『あの加賀谷が!?』 『嘘だろ!?』  2-Dの加賀谷は委員長なだけでなく、2年生に1人しかいない生徒会役員だ。  1学期の期末考査は学年トップ。長身の細マッチョ。整ってはいるけど神経質そうな細面の顔に黒縁メガネ。さり気なく人助けが出来る親切心と品のある物腰で、女子部からの人気も高い。  加賀谷がゲイかどうかなんて、気にしたことなかったよ。性的なものに無関心っていうか、無関係に見えて。オナニーすら、身体のシステム上必要だからと仕方なくしてそうなイメージ。  そんなマジメを絵に描いたような模範生が……ゲイでタチでサド!?  あ。もうひとつ脳内コメント。 『玲史って、自分がサディストの自覚あったんだー』 『自分の性癖を堂々と言えるのは、ある意味羨ましいな』 「本人に聞いたのか?」  紫道が先に口を開いた。 「見たの。新しくオープンしたゲイ向けアダルトショップのSMコーナーで。ハードプレイ用グッズを真剣に吟味してたよー。ケインとか尿道プラグとか。買い物カゴにはクリップ付きローターと蜜蝋(みつろう)クリーム」  う……リアルだ。  腐男子の俺にとってのSMは、せいぜい手枷足枷言葉責めまでが許容範囲。それ以上のオモチャの知識は処女並みに低い。 「蜜蝋って何に使うんだ?」  SMについて知りたいわけじゃないのに、つい聞いちゃったよ。 「縄のメンテ用。汚れるから使い捨てにする人も多いけどね。練習用の縄に使うとか、お気に入りの縄があるとか?」 「あ……そう……」 「SMグッズ見てたからって、サドとは限らないだろ」  ついていけないと戦線離脱を決めた俺に代わり、紫道が言った。 「誰かに頼まれたとか、加賀谷が自分に使うこともあり得る」 「ないない。ああいう場所では本性が滲み出るから。同類はわかるの」 「お前と同類……」  紫道が溜息をつく。 「気をつけよう」 「自分で言っといてなんだけど、この話ここだけに(とど)めといて。加賀谷、学園では隠してるみたいだし。誰かが被害にあったって噂も聞かないし」 「わかった」 「そうだな」  俺たちが頷くと、今度は玲史が溜息をついた。 「人に迷惑かけなきゃ、どんな性癖でもいいじゃんね。加賀谷もオープンにしてくれればいいのに。同じ趣味のヤツといろいろ語り合いたいなぁ」 「その気持ちは理解出来るが、人に知られたくない趣味もあるだろ」 「その通り。みんながお前みたいにはいかないさ」  紫道に同意しながら、俺もこっそり溜息をつく。  俺も加賀谷と似たようなものかも。  マジメな委員長は、ここで平穏に過ごすための顔。  加賀谷が性癖を隠すのはわかる。ゲイでタチはともかくサドは……真性マゾ以外には印象が悪いだろうからな。  俺が隠すのは性指向不明な自分。  そう思ってたのが……崩れてく予感がする。  予感てさ、自分に都合の悪いことに働く場合が多いよね。  第六感って自己防御仕様なのかな。 「そろそろ候補案出してもらおっか。もういい時間」  玲史の声で時計を見ると、ちょうど授業時間半分の25分経過してる。 「俺たちの意見はどうする? 一応何か出さないと」 「毎年何店か出るメンズカフェでいいじゃん。うちの一押しくんたちが席について接客するの。男も女も呼べるでしょ」 「まぁ、無難だな」  玲史の案に紫道が賛成。  適当だな、お前ら。俺もだけどさ。 「さてと。じゃあ、みんなに意見を……」  教卓の前に立って教室を見渡した。 「凱の話題提供のおかげで、みんな雑談に花を咲かせてるようだな」  紫道が教壇に立ってチョークを持つ。 「まっしょうがないよ。授業は気抜けないから。LHRぐらいはバカ話で頭休めないとね」  玲史は俺の隣にスタンバイ。 「この後さっそく行こうぜ、女子部。そうそう、A組の杉原も連れてかねぇと。海咲(みさき)に頼まれてんだよな」 「正親(まさちか)はタラシのくせに、自分になびかない女に固執してるんだ。海咲ちゃんには何度もフラれてるのに」 「いーじゃん。そんだけ好きなんだろ? そーゆーの憧れる」 「俺はひとりに執着しない。深入りするのが怖いだけかもしれないけどね。凱は? 彼女ほしい?」 「んー要らねぇかな。たまーに遊ぶくらいで十分」 「どんなコがいいの?」 「そーねー……太ももの内側が柔らかいコ」 「何だそれ。触るまでわかんないじゃんってか、みんな柔らかいだろ」 「うん。だから誰でもいーや」 「うわっ。女の敵発言」 「女子の前でそれ言うなよ」  凱。チャラ男って……そういう感じだっけ?  態度や言葉遣いやノリが軽くて、自由で女好きでナンパでチャラチャラ……合ってるか。  で、今日さっそく女子部に行くのね。佐野と、女好きナンバー2の御坂(みさか)樹生(いつき)と。  御坂は線の細い中性的な顔立ちの、和風美人さん。新庄に負けず劣らず男にモテるけど、自分をエロい目で見る男が大嫌いで……紗羅と訳アリだ。  そして。  A組の杉原……涼弥(りょうや)も連れてくって言ったよな。佐野のヤツ。  あー……なんかまた、嫌な予感がヒタヒタと。  予感が自己防御のための事前告知なら、一緒に対処法も示してくれ。コメントつき動画で!  あー……。  このLHRが終わったら。うちの遊び人たちが、凱と涼弥を連れて女子部に行く。  奇しくも今日、同じ場所に行く用事のある俺。  当たってほしくない予感ほど当たるよな。

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