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7-3 憩いスペースに女子達登場

 女子部に到着したのは3時42分。  校門前の公園モドキにいるうちの生徒は、俺を入れて3人だけ。  緋隼(ひしゅん)学園の生徒はまだいない。  ここに来るのはいつも金曜だけど、今日は月曜。  深音(みお)から昨夜メールがきて。 『話があるの。急でごめん。明日、学校のあと会える?』  オーケーの返信した時から気にかかってる。  滅多にないイレギュラーの『会おう』の目的は何? このフラグって、普通なら別れ話だよね?  普通じゃない俺たちの関係でも、それ以外にフラグの意味が思いつかない。  エセの恋愛関係を解消しても。友達としては終わらないから、恋人同士の別れに文句も不満もなし。未練とかそういう感情も。  ただ……タイミングは今じゃないほうがいい。俺の都合で。  せめて、学祭が終わってからにしてくれると助かる…彼女アリのノンケでいるほうが、何かと楽だからさ。  深音の用件が別れ話だった場合に、この要望を通すかどうか考えていると。女子部の門がガラガラと音を立てた。  門は緋隼学園の下校時刻3時50分に開かれる。  うちの下校時刻は3時35分で、15分早い。  これ、わざとなんだよね。  男子が女子を待つべきだって。  そもそも、この公園モドキのスペースは。放課後に友人と安全に語らう憩いの場って名目でありながら、実用としては蒼隼学園の生徒が女子部のコを待つために造られたらしい。  お嬢様学校の緋隼学園は、生徒に悪い虫がつかないように放課後の街の見回りを欠かさない。さすがに友人同士で買い物したりお茶したりするのまでは禁じてないけど、男と連れ立って歩いてると注意される。  不純異性交遊は原則禁止のため。  まぁ、あくまでも建前で。緋隼に子どもを預ける親の手前っていうか。  だから、制服姿だとNGでも、私服に着替えちゃえばパトロールの教師に見逃してもらえる。顔も名前もしっかりわかる担任にもだ。  唯一の例外が、蒼隼学園の生徒たち。うちの男子と一緒にいても咎められない。  同じ大学付属校だから信用があるのか? 何の信用? 女子部と違って蒼隼はお坊ちゃま学校じゃないぞ?  うちは学力面に気合入ってるだけで、立派な紳士になる教育はされてないもんな。代わりにゲイは大量生産されてるけど。  とにかく、蒼隼の男との恋愛は推奨されているかのごとく。ご丁寧に待ち合わせスペースまで用意してくれて、そこはナンパ場と化している。  いつからこうなのか知らないけどさ。  学園がどんなルールを敷こうが、女子高生の好奇心と恋愛欲は抑えられないようで。清楚なお嬢様を育むはずの学園の実情は、貞操を守る気のある女子のほうが少数ってところ。  その女子部のコたちが、門から溢れ出て来た。  3分の2はそのまま大通りへ。  残りはナンパスペースへ。  いつの間にか女子を待つ男は10人以上いる。  月曜から張り切ってるねーきみたち。  待ち合わせのカップルはいそいそと消え。大量に設置されたベンチに腰を下ろす女子のグループには、数人の男子が声をかけに寄っていく。  まだか、深音。  早く来てくれないと、佐野たちが先に来ちゃうだろ。  来たからって、やましいことは何もないよ? (かい)以外は深音と俺がつき合ってるの知ってるし、見たこともあるし。  だけど。  深音と一緒にいる俺を……涼弥に見られたくない。  そう思ってる自分を見られるのが、さらに嫌だ。  出来れば顔を合わさずに済ませたい。俺だけに意味がある保身のため。  悪いか? そう思ってもいいじゃん?  だから、深音。早く来い! 「將梧(そうご)!」  俺を呼ぶ女の声。  でも、深音じゃない。  あーこれ以上登場するかも人物増えたら俺、意識トリップすること考えちゃうよマジで。  声のしたほうに目をやると、女子3人がこっちに向かってくる。  俺の座るベンチの前で足を止めたひとりが口を開く。 「深音から伝言。『ごめん! あと10分待って』だって」  紗羅だ。  当然だけど一卵性の双子ほどそっくりじゃなく、普通の姉弟程度に俺と似た顔。  ツインテールにした長い髪は控えめな茶髪。  意思の強そうな大きめの目と小ぶりな口がかわいいと言われるらしいけど、俺にはもはや外見でのかわいさは判断不可能。  紗羅の気の強さを身をもって知る弟だし、その口から発する辛辣な言葉と遠慮無用の腐りエロワードを聞き過ぎてるせいで……何重ものフィルターなしで見れないからな。 「先生に捕まっちゃったみたい。来るまで一緒にいてあげる。こっちも待ち合わせだし」  いや待て。  いてあげるって言うな。俺はいてもらわなくていいの。  訂正。いてほしくないの。  言っても無理なのは、紗羅だからってわけじゃなく。 「お久しぶり。將梧くん」  そう言ったのは土屋(つちや)海咲(みさき)……佐野が惚れ込んでる海咲ちゃん。  このコがいるんじゃ、もうどうしようもない。  佐野たちが来るまで紗羅たちはここにいる。  深音がいつ来るか……。  先に来れなきゃ、ずーっと遅くなってみんな()けてから来ればいいけど。きっと一番イヤーなタイミングで……。  ヤメ!  悪いほうに考えるな。予感が当たったことを喜ぶんだ。  さらに、第六感が助けてくれる……って期待しろ!  ムリヤリ気を取り直し、海咲に笑顔を向けた。

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