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7-4 姉とその友達
「久しぶり。今日は佐野と待ち合わせ?」
海咲 ちゃんは、クリクリ目で普通にかわいい。小柄で童顔で胸が大きい。きっと、このへんが佐野に刺さったんだろう。
「そう。さっき連絡がきて。先週紹介してほしいって頼んだ人を連れてくからって」
「涼弥だろ? 杉原涼弥。佐野が言ってた」
「將梧 くん、杉原さんと知り合いなの?」
海咲ちゃんが驚いた顔するのは、紗羅から涼弥のこと聞いてないからか。
「幼馴染みだよ。幼稚園からずっと一緒」
「そうなんだ。それなら……紗羅経由で將梧くんに頼めばよかったかな」
「え? 何? 和沙 が探してる人って涼弥だったの?」
紗羅が、一歩後ろにいるもうひとりの女子に言う。初めて見る顔だ。
「あー金曜日、私もいればすぐわかったのにごめん!」
「用事があったんだから仕方ないよ。名前も知らない男だもん。海咲の友達と一緒にいるところ見かけて、誰かわかっただけでも十分」
そう言った和沙ってコ。つい見惚れちゃったよ。
スラっとした体形に、顎の細いボーイッシュで中性的な顔。黄色に近い栗色のショートカットがよく似合ってる。
何者……!?
なんかすげーカッコイイんですけど。
「私のために、海咲にはストレスかけちゃったね。ありがとう。アンタの好意はムダにしないから」
海咲に微笑む和沙。
ほーっとその様子を見てた俺に、和沙の視線が移る。
「紗羅の弟で、深音 の彼氏の將梧? 会うのはじめてだね。私、藤宮 和沙 。以後よろしく」
「よろしく」
挨拶も男前だなぁ。
まっすぐに俺に向けられた和沙の瞳を見つめる。
悲しげというか淋しげというか……憂 いを帯びてるっていうの?
人を惹きつける瞳をしてる。
「ところで、和沙ちゃんは……」
「その呼び方やめて」
「え……?」
「和沙でも藤宮でも。呼び捨てにしてくれない?」
「あ……じゃあ……和沙」
ピシャリとちゃんづけを遮られ、おとなしく従う。
「涼弥を探してたって何で? どっかで会ったの?」
その問いは、和沙の雰囲気を一変させた。
堂々として悠然な物腰から、動揺と怯えを隠すために威嚇 する小動物みたいな態勢へ。
「アンタに関係ない」
眉間に深い皺 を寄せた和沙に睨まれる。
え!? 俺何かマズいこと言った……?
涼弥を探す理由聞いただけよ?
一目惚れしちゃったからお近づきになりたくてーとかだと思って、軽い気持ちで。
そりゃ確かに俺に関係ないし。気になったからって、初対面の女のコにプライベートな質問は失礼だったかもしれないけどさ。
そんな怖い瞳で殺気ぶつけなくてもいいじゃん……!?
「ちょっとどうしたの? 和沙」
不穏な空気に気づいた紗羅が割って入る。
「將梧が悪さでもした?」
ハッとした和沙から、張り詰めたオーラが消えた。
「ううん。何もしてない。ごめんね」
謝罪の言葉は俺に向けて。
「杉原……さんに、どうしても言っておきたいことがあるんだ。それだけ」
それは聞かれたくない内容で、だから過剰に反応したのかも。
つつかれたくことって誰にでもあるよな。
「そっか。俺こそごめん」
和沙がやわらかい表情になる。
「今日は深音とデート?」
「どう……だろう。急に呼び出されたからな」
うー深音の話はつらい。所詮 偽装だ。ボロが出る。
その前に来てくれ。
もう10分くらい経つんじゃない?
今すぐ来れば佐野たちとも会わずに……あ! ヤバ!
「紗羅。悪い! 言うの忘れてた。佐野と一緒に御坂 も来る」
俺と目を合わせた紗羅は、一瞬固まり能面顔になったあと。不敵な笑みを浮かべた。
「あいつが来るから何なの? どうせナンパでしょ?」
「顔合わせたくないかなーと思って……」
「前にも言ったよね。私がコソコソあいつを避ける理由なんかないって」
「そうだけどさ。やっぱ気マズいだろ」
言いにくいけど言う。紗羅が強がってるのがわかるから。
紗羅は御坂とつき合ってた。4ヶ月くらい。
で、一ヶ月前に別れた。度重なる御坂の浮気が原因で。
まぁ……世間にはよくあること。姉と自分のクラスメイトなのを除けばね。
「全然。それにもう遅いし」
紗羅の視線は緋隼学園の門とは逆方向、大通りに続くここの入り口に向けられてる。
振り向いて、同じほうを見る。
深音は間に合わず。
佐野に御坂、凱 、涼弥が憩いスペースに到着した。
紗羅と海咲、和沙の女子3人の表情が曇る。そこに加わる俺。
こんな時こそポジティブシンキング! 無理にでもな。
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