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11-2 気づいてないのは俺だけ?
「海咲 の家に行って、和沙と3人で遊んだ」
素っ気なく、紗羅が答える。
それだけ?
俺が帰るの待ってたよね?
「何か話したいことあるんだろ」
愚痴があるなら聞いてやるし、ノロケもちゃんと聞く。特には耳の痛い忠告もしてあげる。紗羅も俺にそうしてくれる。
物心ついた頃から、俺たちは家族であり親友でもあるからさ。
「樹生 にイライラさせられたのが収まらないの。あと、あの男……凱 くんに、何気なくフォローされたのもちょっと悔しいかな」
あ。ちゃんとわかってるんだ? フォローしてもらったってこと。
「そうだお前、凱に何言ったの? やめろよな。御坂にあてつけるのに知らない男誘うとか。悪いヤツだったらどうするんだよ」
「あの時はほんとムカついたんだもん。樹生が……私が彼氏作らないのは俺のこと忘れられないからでしょ、ヨリ戻したいならいつでもOKだよって」
あー御坂はそんなノリだよね……で、実際に忘れられてないからムカついた、と。
「だから、どうせ遊ぶならアナタじゃなくこの人のほうがいいって返して。隣にいた凱くんに、二人でどこか行かない? 何でもつき合うわよって言ったの」
「投げやり感満載だな」
「わかってる。でも、初めて見る男だったけど、樹生の友達だと思ったし。わりと好みの顔だったしね。ただ、あの場から私を連れ出してもらえればなぁって。軽い気持ちで」
「それでやられても文句言えないぞ。しないって強がっても、するだろ後悔」
紗羅が顔をしかめる。
「いざとなって泣いて抵抗してもムリヤリ犯す男に当たったら、運が悪かったって諦めるわ」
「そういうのやめろって。お前そんなバカじゃないくせに、何で?」
「平気なとこ見せたかったの」
「だからってさ。俺は嫌だよ。お前が、御坂のために自分のこと傷つけるような真似するのは。あいつも嫌だって言ってたじゃん」
「將梧 はともかく、樹生には関係ない」
「関係あるから嫌なんだろ。御坂もお前に傷ついてほしくないんだよ」
「何それ。罪悪感? 自分のせいで私が自暴自棄みたいになったら胸が痛むの? そんなまっとうな心がある男だなんて知らなかった。悪びれもせず女遊びしまくってたから」
「紗羅……」
さすがに御坂の女癖の悪さの擁護はしないけどさ。
あの場面でちゃんと凱を止めてくれたのは、評価されてもいいんじゃない?
紗羅のこと本気でどうでもよければ、気にも留めずスルーだろ。
まぁ、大事なのは御坂じゃなく紗羅の気持ちだ。
「とりあえず、無理するのやめれば? まだ好きなんだろ?」
「好きじゃない」
デカい目で俺を睨むように見つめる紗羅。
「好きじゃないことにしておいたほうが楽なの。だからこれ以上言わないで。お願い」
「わかった」
その気持ちはリアルに共感出来る。
俺自身、そう思ってるからな。
紗羅が目力を緩めた。
「ねぇ。今日見てて気がついたんだけど……」
え……まさか紗羅も、深音 と同じこと言い出すんじゃ……?
「涼弥って將梧のこと好きなの?」
「は……!?」
え!? 逆……!?
何で?
そんなことあるわけ……。
「將梧が涼弥に気があるとは思ってたけど」
「え? 俺が? いや、涼弥が!? 何だよそれ。何でそうなんの? どこが……!?」
地味にパニクる俺。
「深音とつき合う時、言ったじゃない? 自分がゲイかもしれないって。そう考えるのは気になる人がいるからだと思って見てたら、相手は涼弥かなって」
「俺、そう思われるようなことしたか言った?」
あー……デジャヴだ、でじゃぶ。
このセリフ2度目だ今日。
「夏休みに、涼弥と偶然会って一緒にランチしたでしょ? モールで」
「あー……したね」
「將梧の挙動、ハッキリおかしかったから。スプーンとフォーク間違えたり、塩かけ過ぎたり。アイスコーヒーにガムシロ2個も入れたり。普段は絶対ブラックなのに」
口を開けた俺に、紗羅が微笑む。意地悪っぽくはないんだけど……したり顔で。
「でね、涼弥と目が合いそうになると逸らすの。恋する乙女みたいに」
「やめろ。それ以上言うな。お前の根拠はわかったから」
聞いてて恥ずかしくなる。
そんなあからさまだったの……!?
気づいてないの、俺だけだったりしてな。
はは……笑えねーよ!
たださ。ひとつ言い訳すると。
春からこっち、涼弥との仲がぎこちなくて。さらに一緒に飯食った時、深音と初体験してから涼弥に会うの初めてだったんだよね。
だから、なんか……見た目は変わってないんだけど、自分がどっか違って見えるんじゃないかって。自意識過剰になって落ち着かなくて……よけい普段と違って見えたと。
「好きなの? 涼弥のこと」
「俺さー今日ハッキリ気づいたんだよね、それ」
大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。
「好きだよ。だから……涼弥が俺を、なんて……気軽に言わないで。お願い」
紗羅と同じ言い方で牽制。いろいろ先走って間違うと、真実知ってへこむからな。
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