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11-3 腐女子の姉から見ると

 短めの沈黙のあと、紗羅がうんうんと頷いた。 「將梧(そうご)は腐男子でも恋愛にはオクテだもんね。気づかなくて当然かも」 「仕方ないだろ。3次元の男をそういう目で見てなかったんだから」 「蒼隼はホモばっかりなのに?」 「中学はな。今は、半分は女好きだ」 「そうね。出会い場に来る男子たちはみんな女好きなんだっけ」  トゲのある紗羅の声。  あー……一対一で真剣なおつき合いをしてる男もいると思うよ?……きっと。 「涼弥が今日来たのは、海咲(みさき)正親(まさちか)くんに頼んだからでしょ?」 「らしいな」 「もとは、和沙が海咲に頼んで」 「あの和沙ってコ、かっこいいね。涼弥に話があるって……なんか妙な雰囲気だったけど、うまくいってたか?」 「話したいこと話せたみたいで、和沙は満足してた。でも、將梧が深音(みお)に連れていかれてからすっごく不機嫌だったけどね、涼弥は」 「俺が原因じゃないだろ別に。来た時から機嫌悪かったし」 「そう? 涼弥と(かい)くんが話してるの聞こえちゃった。將梧に手を出すなって」 「あーあれは凱の挑発のせい。マジに取って警告しただけだよ。涼弥はまだ凱のことわかってないからさ」 「將梧も今日初めて会った転校生なんでしょ? もうそんなに親しいんだ」 「俺もまだ少し話したくらいだけど、凱は……気が合うっていうか、信頼出来るの。理屈じゃなく。あるだろ? そういうの、女友達でも」 「まぁね。でも、そっか。涼弥が妬くわけだ。あの強面で嫉妬ってかわいいな」 「お前、なんか激しく勘違いしてるぞ。第一、涼弥はゲイでもバイでもない。男との噂なんか一度も聞いたことないからな」 「將梧だってそうでしょ。しかも、公衆の面前で抱いてってねだる彼女がいて。内情を知らなきゃ、男が好きだなんて思いもよらないわよ」  う……確かにそう、だろうけどさ。 「涼弥、すごくつらそうで切なげな瞳で將梧が帰ってく姿追ってたの。だから」  デジャヴその2か?  深音(みお)が言った切ない瞳は俺だけど。 「あと……和沙に聞かれたの。涼弥はゲイかって。つまり、そう見えたってこと」 「なんて答えた?」 「わからない。でも、彼女も彼氏もいないはず……って」 「そうか……」  和沙……あのコ、やっぱり涼弥のこと好きなのかもなー。  二人ともクールで一匹狼っぽい外見で、並ぶと迫力あるし。結構お似合いなんじゃ……なんて。  あ。ちょっとダークな気分。 「將梧」 「ん?」  紗羅が真剣な顔を向けてくる。 「涼弥はいい男だと思う。浮気とかしなそうだし」  やっぱポイントはそこなのね。  なのに遊び人に惚れるって……因果だな。 「私、応援するね」 「あーうん。ありがと」  口角を上げて、笑みを返した。 「でもさ、見守るだけで何もしないで」 「人の恋愛に、口は出せても手は出せないでしょ」 「たとえば……もし万が一涼弥に聞かれても、俺が実はノンケじゃないとか言うなよ。深音とのつき合いが偽装だとか」  紗羅が片方の眉を上げて首を傾げる。 「何のために誤解させたままにしておくの?」 「あくまでも仮定として。もし、涼弥が俺と同じ気持ちだとしても……」 「同じだってば」 「お前にはそう見えるってだけだろ。とにかくさ。俺、自分が男とつき合う自信……まだないから」  目を瞬いて俺を見つめる紗羅。  その瞳に腐った輝きが宿るの……見たくなかった。  つき合う。イコール、セックスする。  で、妄想したね? 俺と涼弥の絡み。ねちっこいやつ。  本気でヤメテ。俺ですら出来ないのに、その妄想。 「あ。そうだ。凱さ、一応クラスのヤツらにはノンケってことにしてあるんだけど、バイなんだよ」  涼弥の話、もう今日は終了にさせて。これ以上はキツイの。精神的に。  代わりに趣味の話で〆てお開きにしよう。 「へー。じゃあ、將梧ならいいって本気だったんだ」  あー……俺と凱のカプで妄想もやめような? 「そこはとりあえず置いとけ」 「でも、確かに男にモテそう」 「転校生総受けっぽい?」 「そう! そんな感じ。いいかも!」  すっかり腐りモードに入った紗羅に懺悔(ざんげ)。 「紗羅、ごめん。話の流れで、お前が腐女子だって凱に言っちゃった」 「はぁ……!?」  怒りを込めた紗羅の視線が俺を射る。 「どんな話でそうなるわけ? 何勝手に人の秘密喋ってんのよ。信じらんない」 「ほんと、ごめんな。けどさ、凱は腐女子って言葉知らなかったし、あいつ独特な思考だし」  強い瞳で睨む紗羅に、罪滅ぼしのリアル萌え源を。 「それにリバだよ。ガッツリ。萌えるだろ?」  今度は新しく出来た友達を姉に売る俺。  よろしくないよね。わかってる。凱は全く気にしないだろうとしてもだ。  明日、凱にも謝ろう。 「リバ? あーわかるー! あの目つきは捕食者よね。バイって攻め多いし。でも、受けは絶対あり。凱くんかぁ。いいレパートリー増えたわ」  不覚にも盛り上がってる自分に気づいた紗羅が、ハッとする。  そして、顎の先を上げて俺を瞳で(さげす)んだあと、息をついた。 「今回は許してあげる。でも、口止めしといてね」 「うん。あ、お前も凱のこと人に言うなよ? トラブル防止のために、ノンケを装うんだからな」 「わかった。代わりに、もうひとつお詫びのネタちょうだい」  紗羅の口調からトゲトゲしさが消えてる。険もなく、いつもの調子に戻ってる。  御坂が原因のイライラも、俺への怒りもキレイに収まった模様。  腐の癒しは絶大だ。 「凱くんに慰めてもらったら、その時はちゃんと教えてね?」  何ソレ。 「あったらな」  ここで異論を唱えても仕方ないので了解。  だけど。  ついウッカリ想像しかけた……凱とのセックスを。  妄想BLワールドに友達を取り入れるのだってよくないのに。  今、リアルにだったよね?  ダメだろ! 好きなヤツいるのに。何考えてんだ俺……。  あー……マズいな。

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