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12-1 早朝の教室で

 翌日、いつもより早い電車で登校した。  毎朝3段階アラームでやっと起きるのに、今朝は1時間も前に目が覚めて。  ウトウトしてたら危険な妄想しちゃいそうでさ。とっととお日さま浴びて朝の空気を吸って、心を清くしたくなったってわけ。  教室に着くと、ビックリするほど人気(ひとけ)がない。  普段から始業時間の25分前と早めに来てるけど、今朝はさらに20分早い。用もないのに45分も前から教室でスタンバイするヤツは、さすがにほとんどいないよな。 「委員長、おはよう。今日は早いね」 「おはよう。鈴屋」  2-Bの教室にいた二人のうちのひとり、鈴屋(すずや)結都(ゆうと)と挨拶を交わす。  自分の席で読書をしていた鈴屋は、物静かで大人っぽい雰囲気を(まと)ったクラス一の秀才だ。  冷たく整った顔と細い身体の鈴屋は、ゲイの攻めに狙われやすい。  本人は全くその気がないにもかかわらず、1学期の後半に3年生からゲームの対象にされ散々な目にあってた。結末は聞いてないけど、誰かとつき合ったりはしてなさそうだ。  鈴屋も、色恋やセックス関係に無関心に見える。D組の加賀谷みたいに。  まぁ、つまり……本当のところはわからないってやつ。  鈴屋と俺はあまり親しくないから、挨拶の先は続かない。仲が良くも悪くもない、普通のクラスメイトとはそんな感じ。  42人中30人くらいは普通のクラスメイト。自慢じゃないけど、全員とそれなりの親交を持てるほど、俺の社交キャパは広くないからさ。  教室にいるもうひとりは、御坂(みさか)樹生(いつき)だった。  自分の席でカバンから教科書を出してると、窓辺でボーっと外を眺めてた御坂が振り向いた。 「あーおはよ、將梧(そうご)」 「おはよう。御坂がこんな時間に学校いるの、珍しいんじゃない?」 「家帰ったの朝でさ。寝ちゃったら起きれないから、着替えてすぐ来たんだ」  言いながらこっちに来て、俺の隣のイスを引き出して腰を下ろす。 「眠い……。自習があればいいな今日」  まさに眠そうな目でうっすらと笑みを浮かべる御坂を見て、見当がついた。 「あれから遊びに行ったんだな。佐野たちも?」 「正親(まさちか)(かい)とね。二人は夜帰ったから、泊りは俺だけ。杉原は行かなかったよ。ていうかさ。杉原が女のコと遊んでるのって俺、見たことないんだけど。硬派なだけ? それとも女がダメなの?」 「どうだろうな」  俺こそ知りたい。男はダメなのかアリなのか。 「涼弥に彼女がいたことはないはず。でも……男とどうこうってのもないと思うし」 「正親は仲いいみたいだけど、俺はほとんど知らないんだよね。杉原って、街の荒くれ集団まとめてるんだろ?」 「まぁ……そういうグループかな。荒くれっていうより、荒くれをやっつけるからそう見えるんだよ。涼弥たちは」  公立の中学に通ってた頃から、涼弥は街中でよくケンカをしてた。その話を聞く限り、暴力沙汰の背景にはいろいろ理由があって。  正義のミカタじゃないけど、憂さ晴らしに人を殴る人間じゃないことだけは確かだ。 「幼馴染みなんだって? 紗羅が言ってた」 「うん。中学は別だったけど、幼稚園から一緒。なぁ、御坂……」  俺と視線をを合わせた御坂が、話の先を読んで頷いた。 「わかってる。昨日はごめん。紗羅を怒らせるつもりはなかったんだけどね。久しぶりに会ってつい、よけいなこと言っちゃって」 「俺に謝る必要ないけどさ。(かい)とのやり取りは止めてくれて助かった」 「あれは俺が嫌だったから。でも、凱はわざと煽っただけだろ」 「それでも、お前が止めるのに意味があるんじゃん。ただ……気軽にヨリ戻すとか言うなよ」 「からかったわけじゃない。俺は本気」  俺が眉を寄せる理由を察して、御坂が溜息をつく。 「ほかの女と遊んでる俺の言葉に、説得力なんかないよね」  コイツ、ほんと人の言いたいことすぐ読み取るよな。頭の回転が速いっていうか。  心の機微ってやつに敏感なのに、女心はわからないのか。  いや。  わかるから、次々と女をその気に出来るのか……でも、浮気はよくないだろ。 「紗羅のことは変わらず好きだよ。許してくれるなら、またつき合いたい。ただ、紗羅以外の女と寝ないとか出来ないから……無理だろうな」 「出来ないって。どうして浮気しないでいられないんだ?」 「浮気じゃない。別に好きでも嫌いでもない相手とセックスするだけだよ」  それが浮気っていうんじゃないの? もう、それこそが! 「何で好きじゃないのにする? 紗羅に不満? 物足りないとか?」  弟として悔しいけど。  遊び人の御坂からしたらいろいろ満足出来ない部分があって、ほかの女でそれを補ってるのかも……テクニックとかマニアックな要求に応えるとか。 「不満なんかないよ。どうでもいい女に性欲分散させてるだけ」 「何だよ分散って……必要ないだろ。紗羅とすればいいじゃん」  御坂が疲れた顔で首を横に振る。 「俺には必要なの。そうしないと、紗羅のこと監禁しちゃうかもしれないから」  半開きの口で言葉を探す俺。  え? 監禁て……逃げられなくして、犯しまくるってこと!?  浮気三昧からその執着って。極端過ぎだろ。ほどよく中間ってないの?  ていうか……そんなにセックスしなきゃダメなの? 余るなら自分で処理しよう。きっと、みんなそうだよ? 「さすがに嫌われるだろうし、俺自身そこまで夢中になりたくないし。愛想つかされてよかったのかもね。お互いに」 「お前、普通につき合うって出来ないの?」

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