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14-2 厄介な気持ち
「気になったか?」
問われて、前に向けてた視線を涼弥に移す。
「藤宮が、俺に何の用があったのかって」
それは……正直気になった。
あの時点ではまだ、自分の気持ちをシッカリと自覚してなかったけども。
「まぁ……な。和沙のことカッコイイ女だって思ったし。涼弥に一目惚れして告るのかもって。お前と……お似合いだと思ったりもしたよ」
「お似合い、か。お前がそう思うなら、つき合ってみるかな」
「は……!? え? マジで和沙と……!?」
驚きとショックで、動揺を隠す余裕なんかなく。
「和沙からそんな話出たのか? お前のほうから?」
ちょっとためらいを見せたあと、涼弥が口を開く。
「藤宮に頼まれた。彼氏のフリしてほしい場面があるから、少しの間形だけつき合ってほしいってな。惚れたとかじゃない。便宜上そうしたいってだけだ」
形だけって、便宜上って……俺と深音 の偽装交際とは違うよな?
ハッキリ言うと、気持ちがないだけじゃなく実践もしないってこと……だよな?
でも……。
「一緒にいたら、お互い本気になるかもしれないじゃん?」
多大な努力で微笑む俺に、涼弥が真剣な眼差しを向ける。
「將梧 は……そうなってほしいか?」
ほしくねーよ!
なんて、今の俺には言えない。
かといって、ほしいなんて……もっと言えない。
自分は彼女がいるくせに、何自己中な考えしてんだ俺。
僅かに眉を寄せながらも、頑張って口元に笑みを残した。
「お前の恋愛、俺が口出すことじゃないだろ。涼弥が好きな相手とつき合うなら……よかったなって思うけどさ」
「俺の好きな相手……か。それが出来れば一番だな」
溜息まじりの涼弥の言葉に、俺はつい口にしそうになった。
『お前、好きな人いるの?』って。
聞いちゃダメだ……まだ。今は。
涼弥の答えがイエスだと、自分の挙動がおかしくなる1分先の未来が見えるからな。
だってさ。
いるって言われたら、誰だよって聞くじゃん?
それが自分じゃなかったら、単純にへこむ。もしかしたら俺かもって期待し始めちゃってた分、よけいに落ち込むね。
で、俺の気持ちが涼弥にバレたら……気マズさマックスでいたたまれない。たぶん、猛ダッシュでこの場から逃げる。
そして、自分だった場合。
きっと言っちゃうよ、俺もお前が好きだ……って。
その先に自信がないのに、その先をどうしたって考えちゃって。ギクシャクして変な生き物になるね。
一番の不安は。
自分が、御坂みたいに男は無理な可能性がゼロじゃないこと。
好き同士でつき合って、でも性的に受けつけなくて別れたら……きっと、友達としての仲も終わる。
そう思うとゾッとする。
涼弥を完全に失くすなんて嫌だよ。絶対にごめんだ。友達のままのほうがマシ。
だから、グッと堪えて足を動かし続けた。
期待と不安が共存する思いを、悟られないように。
「將梧。今度、うち来いよ」
購買に向かう俺との別れ際、階段下で涼弥が言った。
「時間が合う時に、たまには……遊ぼう。勉強でもいいが」
「う……ん。そうだな。また、前みたいに一緒に……」
諾 しはしたけど言葉に詰まる。
何……で今それ?
俺をさり気なく避けてたの、お前のほうじゃん!?
春のあの時……レイプされそうになった俺を間一髪で助けてくれた時から。
お互いに気マズいのはわかるけど、俺は普通にしてたつもりなのに。
で、どうして急にそうなる?
わだかまりっていうか……俺たちの間に出来た溝埋める要素、この3、40分の間にあったか? 俺は見当たらなかったけど?
前みたいには……自分で言っといてアレだけど、無理だな。もう普通の感覚なんかわからない。
涼弥は出来るのか。普通に俺と友達づき合い。遊んだり勉強したり。
あ。ちょっぴりへこんだ。
「じゃあ、またな。気が向いたら連絡してくれ」
「うん。じゃ、また……」
階段を駆け上がる涼弥を見送ってから、大きく溜息をついた。
誰かを好きって気持ち、自覚しちゃうと……厄介なもんなんだな。
だからって、キャンセル出来ないし。
あー!
心の中で大声を出し、せめて足取りは軽くいこうと先を急いだ。
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